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□じゃはじゃにひかれる
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毒で怯む様子を見せない相手と対峙するのは、久方振りのことである。

『甘いな、お前は』

毒は効いている、間違いなくその黒い駆体に着実にダメージを与えている筈だ。
だが目の前にいるジャイロゼッター、ギルティスは全く意にかいさずにオロチの首を締め上げる。

『っ……ぁ…』

あぁ、朱い双眸に恐怖を抱くことがあるのかとオロチは霞んでいく意識の中で思う。
腕に潜ませた毒牙はギルティスの腕に突き刺さったまま、抜くことが出来ない。
まるでギルティス自身がオロチの毒を求めているかのようで、得体の知れない恐怖を相手に根付かせる。
視界を支配する駆体は、なんてまがまがしい…。
ボディーの色そのもののように、腹の内に秘めたモノは漆黒、際限無い闇のように黒い。
深淵からはい上がってきたような恐ろしい眼差しが、オロチを食い入るように見る。

『く、ぅ』
『嗚呼、見れば見る程美しいジャイロゼッターだ。お前は』

そんな愛おしげな顔をしながら首を絞めるな、殺したいのか愛でたいのか、どっちだ。

『お前が全て欲しい、なぁ』
『ならば殺して遺体でも愛でろ』
『俺にそんな趣味はないなぁ』

へらへらとした口調とは裏腹に首に食い込む指先、精密な回路が集中している場所に割り込む異物。
弱い回路が負けて徐々に切れていく、鋭く裂けるような痛みにオロチの顔は歪んだ。
温かいものが首を伝っていく感覚がある、内部を循環するオイルが損傷箇所から流出しているようだ。

『か、はっ』

込み上がる吐き気、濃いオイルの香りを感じて嫌悪感に苛まれる。
そういえば地に押し倒される前にいくらか攻撃を喰らっていたな……どうでもいいことを思い出す。

『美しい』
『ゲス、がぁっ…』

嫌ならば、この身にその毒を致死量に達するまで注ぎ込んでしまえばいいじゃないか。
ギルティスが笑って囁く、全くもってその通りだ。
伊達にオロチの名を冠する訳ではない、致死量相当の毒を注ぎ込んでしまえば殺せる。壊せるじゃないか。
だが、なぜだろうか。ギルティスに食いついた毒牙は、毒の注入を放棄しているのだ。


なぜ毒を打てない……
なぜ俺は
こいつにダメージを与えることを躊躇う?


霞がかかった意識をギルティスに向ける、まっすぐにこちらを
見下ろしてくるその眼差しに、魅入られる、これは惹かれるというのだろうか。

『お前はもう俺の所有物だ』

違う、とは言えなかった。
声が出なかったのだ、いや、声が出ても拒めなかったかもしれない。
どうやら俺は、こいつに魅入られたらしい……馬鹿らしくなって鼻で笑ったら、首に強い圧力がかかり、オロチは意識を手放した。





じゃはじゃにひかれる





名を呼ばれたような気がして、オロチはオフになっていたカメラアイを起動させた。

『気がついたか』

赤いボディー、レガシィアウトバックがオロチの顔色をうかがってきた。
背中に感じる温もりや圧力に振動、自分は今アウトバックに抱きかかえられているとオロチは理解した。

『……俺は』
『スバル城に程近い所で倒れていた。ミツオカ領までは些か遠い故、城で手当をすることにした』
『そうか』

はぁと深く息を吐く、痛み留めでも飲まされたのか、傷の痛みは全く感じない。その代わり少し気怠かった。

『主、誰に何をされた』
『……さぁな』
『言えぬか。だが、何かに魅入られたような目をしている』

アウトバックがこちらを見つめてくる。その紅の双眸が……どこかギルティスの存在を呼び起こしてくる。

『魅入られた……か』
『何に魅入られたかは知らんが溺れぬように、な』

その者の思念に、その者への思念に溺れて沈んでいかぬようにな。
アウトバックの言葉に頷きながらオロチは笑う、すでに沈み始めているかもしれないこの身が滑稽に思えて。





『じゃはじゃにひかれる』を漢字表記すると『蛇は邪に惹かれる』ですね。

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