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□たたかわないりゆう
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それは不運にも、傘を持たずに出掛けて、行き先で雨に降られてしまった日の出来事。

濡れる濡れると言いながら駆け込んだのは、大きな木の下。
すっかり色付いた綺麗な葉っぱを見て、ツーリングワゴンは柔らかな笑みを浮かべる。

『あぁ、綺麗ですね。スバル城の周辺の木も、早くこんな風になれば良いのに』

足元に落ちている葉っぱを拾い上げ、アウトバックに向けてそっと差し出してくる。
少しだけ困惑しながらアウトバックは、ツーリングワゴンの手から色付いた葉っぱを受けとった。
全体的には黄色で、所々に赤色が混じる。自然が無作為に作り出す美しい模様だ。

『ふむ、確かに綺麗ではあるな』
『だろう、城の皆もきっと気に入る』

たかが紅葉した木一本で、足元に落ちていた紅葉した葉っぱ一枚で、ツーリングワゴンはとても幸せそうな顔をする。
アウトバックにとってその姿は安らぎでもあり、少し、不安にかられる部分もあった。

『兄者はそうして草木を愛でられるのがお好きか』
『そうだな、大好きだ』
『戦われるのは、お嫌いか』

レガシィ・ツーリングワゴンとアウトバック。
共に槍を武器に扱う同じ造形のジャイロゼッターである二人だが、気質がまるで正反対だ。
ツーリングワゴンは、自然の景色を眺め、スバル城の中で仲間の会話や日常的な喧騒を聞いて過ごすのが好きだ。
アウトバックは、くつろぎよりもまず戦いの場を求める、まさに武士のように熱く荒い気質の持ち主。
その気質から窺えるように、ツーリングワゴンは戦いを好まない。
取り分けここ最近はスバル城から出ないことが多く、自らの武器である槍を手にすることもほとんどない。
以前はもっと積極的に戦闘に参加していた気がしたが、いつからこうも引っ込み思案になったのか。

『嫌い、ですね』
『怖いのか、兄者』
『えぇ』

紅の双眸を真っすぐアウトバックに向け、ツーリングワゴンは凛と言う。
戦いが怖いと聞いて、あぁ兄者は臆病だとアウトバックは言いかけた。
違う、ツーリングワゴンは臆病なんじゃなくて……

『私は、怖いのですよ』
『何、が……』
『過去、私は戦に参加していました。私が負傷する度に、死にそうな顔をするものが一人いて…』

まだ、ツーリングワゴンが今よりも積極的に槍を手にしていた頃をアウトバックは思い返す。
兄者が傷ついた時、一番やりきれないような顔をしていたのは誰だった?
兄者が地に倒れた時、一番悲しげな表情をしていたのは……誰だった?

『そのとある忍の顔が痛々しくて、胸に突き刺さった。それ以来私は、怖くなってしまったのですよ』

傷つくことではなくて、自らが傷ついた時に仲間達が見える表情を見るのが怖い。
だから、臆病と言われようとも戦わない道を選んだのだとツーリングワゴンは告げた。
戦うも勇気ならば、守るも勇気ならば、戦わない選択もまた勇気になるのだろう。

『そうか。兄者は、それで良いのだ』
『そうかい?』
『あぁ…そのまま、優しい兄者で居てくれ』

アウトバックにそう言われ、ツーリングワゴンは安堵したように柔らかに微笑んだ。

気が付くと、雨はすっかりあがっていた。
天気はよろしくないが、雲に切れ間が生じ、淡い青色が顔を覗かせている。

『帰りましょうか、アウトバック』
『そうだな、兄者』

木の下を出て、石畳の古風な小路に出る。
真っすぐ歩いて森を抜ければスバル城に着く、雨で思わぬ足止めを食ったが夕食時には間に合いそうだ。

『この紅葉を眺めつつ帰りましょう』
『あぁ』

ツーリングワゴンはアウトバックよりも少しだけ先を歩く、二人はいつもこの距離感で歩いている。

『アウトバック』
『なんだ兄者』
『私は戦が怖いです。でも、もしスバル城の者に危険が及ぶならば、槍を手に取る覚悟はいつでも決めています』

お強い若殿だ…静かで穏やかな中に潜む強い決意、意思を感じ取り、しかしアウトバックは首を横にふる。

『兄者に槍は握らせんさ』





たたかわないりゆう





兄者は、優しいからな。

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