猫と王冠

□アリバイ
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PM8:00の雨空は何処か物悲しそう。
でもそれはネオンが豪華に散りばめられているこの繁華街じゃ、中々思いもしないことだけど。
ううん、違うかな?
言っちゃえば、人の手で作られた物によって空が覆い尽くされちゃってるから見えないだけなの。
皆、眩しすぎるから上を見上げることが出来ない。
そして、今は細雨が顔に当たるから見上げない。

何か、悲しいよね。


何回目かの溜息。
嗚呼、今日も遅刻だわ。
5分おきに見つめる携帯のディスプレイの彼の笑顔が何だか憎らしい。
でもそれより、不意打ちで撮った彼の飾りの無い表情を待ち受けにしている私が重症なのかも。

別に悲しくはない。
ただ、虚しいだけなの。


ねぇ、後どれほど待てばいいの?
もう貴方の遅刻癖にはうんざりしちゃった。
それとも今日は、彼女のほうに行ってたの?
それならそうと言ってくれれば、無理な約束を取り付けたりはしなかったのに。


「もう、潮時なのかな…?」


ぽつりと画面の貴方に呟いた独り言。
何だか、心が痛い。
雨でも賑やかが絶えない繁華街には、1つの傘を差した幸せそうなカップルの姿が幾つも映る。
私と貴方も寄り添って歩けば、あんな風に他人の目に映るのかな?
一言だけでも聞いてみたいの。
「お似合いのカップルだね」って。




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