鷲寮夢主
□誰が為に
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「騎士団のことなんか僕は何も知らなかった!」
「ハリー、僕達だって教えたかったよ! でも……」
なにやら怒声が聞こえ、そちらに意識を集中する。
なだめている声はロン。怒鳴っているのはどうやら……ハリーのようだ。
任務から帰って早々、今度は喧嘩の仲裁かと思いながら、ロンたちの部屋へと足を向けた。
「声が大きい」
「ジル! 帰ってきてたの?」
「今帰ったところだ」
ぱぁっと明るい顔になったハーマイオニーにそう返すと、ハリーが何か言いたそうな顔で私を見ていることに気が付いた。
「どうした、ハリー」
「その、……ジルも騎士団のメンバーだって話、本当なの?」
「そうだ。と言ってもつい先日からだが」
「だってジルはまだ未成年だし、それに、学校はどうするの!?」
「学校には戻らないよ」
私の返事に、愕然としたような顔をする。
ハリーの拳がわなわなと震えていた。
何の連絡も受けず鬱屈とした毎日を送り、おまけに同級生が騎士団員になっていたとあれば、置いてけぼりにされたと思ってしまうのも無理はないだろう。
しかし、私たちが喜んでハリーを蚊帳の外にするわけがあるまいに。
ダンブルドアの決定だということは恐らく伝えられたのだろうが、それでもハリーはまだ納得がいかないようだった。
「もう私がホグワーツで学ぶことは何もない。私に足りないものは実戦経験だけだ」
「でっでも、だからってそんな、」
「ダンブルドアも、もちろん他の騎士団のメンバーも皆理解してくれているよ」
羽織っていたローブを脱いで、ソファの背もたれに掛ける。
一日中あちこち歩き回っていたせいでくたくただ。
一人がけのソファに腰を下ろして、息を吐く。
「僕も騎士団に入りたい!」
私の目を真っ直ぐ見てそう言い放つハリー。
やれやれ、と肩をすくめる。
ロンとハーマイオニーは困ったように顔を見合わせていた。
「いいかハリー。遊びでやってるんじゃないんだ」
「そんなの分かってる!」
「お前は確かに勇敢だし、実戦経験もある。でもそれだけじゃいけない。死ぬかもしれないんだ」
「でも僕は!」
「聞き分けのない」
わざと大げさに溜め息をつくと、ハリーが押し黙った。
ロンとハーマイオニーが居心地悪そうに俯く。
「ハリー。お前を守るのも騎士団の仕事なんだ。どうしてお前が自分から危険な場所に飛び込む必要がある」
「自分のことくらい自分で守れる」
「嘘をつくな。いいか、分かっていないようだから言っておくぞ。お前があの人から生き延びたのは運が良かっただけだ。
それはお前自身の力でもなんでもない。死喰い人と本気でやりあったら一瞬でお前は殺される」
「っそんなの、」
「お前の考えは甘すぎる」
今度こそ、ハリーも返す言葉がないようだった。
少し言い過ぎたかもしれないが、きつく言っておかなければハリーはまた自ら危険な目に遭いにいこうとするだろう。
正義感を持つことも、勇敢なのもいいことだ。……使い方を間違えなければ。
ハリーは少々行き過ぎる傾向にある。誰かが歯止めをかけなければ、自らのせいで命を落としかねない。
それに、もし万が一その行動で誰かを巻き込んだら? その誰かが死ぬようなことになったら?
周囲の人間がそうせずとも、ハリーは自分のことを責めるだろう。
そうさせないためでも、あるのだ。
「ハリー、そろそろ食事の時間だ」
立ち上がって食堂へ行くよう促すと、渋々といった様子でハリーも腰を上げた。
ほとんど景色と同化しかけていたロンとハーマイオニーがほっとしたように二人揃って息をつき、立ち上がる。
ハリーにきつくあたるのは、正直辛い。
「そんな顔をするな。お前の気持ちはよく分かってるよ」
立ち上がったまま動こうとしないハリーの肩に手を置きそう言うと、本当に小さくハリーが頷いた。
あまりあの二人を責めるな、とたしなめればまた小さく首を振った。
2011 0830.