頂・捧
□きみはおいしい
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やっと綱吉の手が離れる。骸は軽く咳き込んだ。いったいその細腕のどこにそんな力があったのかと言うほど、遠慮会釈のない綱吉の気迫は凄まじかった。ちょっと普段の綱吉からは考えられないほどだ。そんなに厭だったのだろうか。
(そこまで嫌がらなくてもいいものですけどねぇ)折角可愛いのに。
とは、口にしない。綱吉の目は依然血走ったままである。ちょっと恐い。
「じゃあちょっとこっちに寄ってください」
ちょいちょいと手招きする。ほとんど抱き込むような至近距離だ。鼻先には薄い肩の曲線がある。
(実に素直、というか――無防備、ですね)
視線は合わない。けれど先程の怒気も感じられない。当然の前提の如く骸を信じている。もとよりあまり人を疑うということをしないこどもだ。人という、その、根源的な部分で。
(しかしそれは僕のような人間にはあまりに無防備すぎる……)
骸は音無く口の端を釣り上げた。
傾倒している自覚は、ある。ただそれを享受していた。
いまは、楽しむのも悪くない。