パラ

□アルビレオ 番外編
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「ヒバリさん!」

あの子が僕を見付けて柔らかい笑顔で、可愛い声で、僕を呼ぶ。その度に僕は嬉しくて仕方なくなる。
あの子の心を手に入れる事が出来たのはほとんど奇跡だ。
あの子が応接室にやって来たのをいい事にした告白は、自分でも無理矢理な所があったと思う。それだけ焦っていたんだ。
実際に行動に移す輩は居なかったけど、あの子は影で、主に2・3年の生徒に人気があった。
風紀委員会で実施した持ち物検査の時に、隠し撮りだと思われるあの子の写真が山ほど出て来た時には怒りも感じたが、同時に焦りが最高潮に達した。
ぐずぐずしていては、他の誰かに取られてしまうかもしれない。
他の、僕では無い誰かに……
そう思って感情のままにした告白は、邪魔が入ったとはいえ、結果的には上手くいった。
僕達はめでたく付き合う事になったのだ。



『アルビレオ番外編』



付き合い始めて登校も下校も一緒にするようになったある日、委員会で服装点検を実施するため僕達は仕方なく別々に登校した。
いくらなんでも委員長がサボる訳にはいかない。でもせめて挨拶くらいは…と校門でツナを待っていると、いつも僕と登校する時と同じくらいにやって来た。
ツナが制服を目に余る程崩す事はほとんど無い。
スカートはちゃんと規定通りの長さだし、ブレザーから覗くブラウスの袖口だってしっかり留められている。
風紀委員長と言う立場から見れば完璧……男としては少し残念だが。

「ツナ、おはよう」
「ヒバリさん、おはようございます!委員会ご苦労様です」
「うん、ありがとう…ところで、一応服装点検するけどいい?」
「はい、多分大丈夫だと思います。」

ツナに念の為確認を取って、頭髪から一つずつ見ていく。しかしすぐに僕の手も、目も止まってしまった。


「ねぇツナ…君、リボンはどうしたの?」
「ぇ…あれ?ウソ……ごめんなさい、忘れたみたいです!!!」

ツナの胸には、いつもならある赤い学校指定のリボンが無かった。本人もうっかり忘れてしまったみたいだ。

「い、今から取りに帰って来ますね!」
「待ちなよ、今から帰ってたんじゃ遅刻するだろ?」

背を向けて急いで走り出そうとするツナの腕を掴んで引き留めた。
衝撃で転びそうになる小さい体をきちんと立たせてやる。

「でも……」

困り顔をするツナを左手で捕まえたまま、僕は素早くもう片方の手で首もとのネクタイを解いた。そのネクタイを、今度はツナの首もとで締めてやる。
その間中、周りからの視線が絶えなかったが、全く気にならなかった。寧ろ、かえって周りの者に対する牽制になって丁度良い。
ツナは僕の恋人なのだから。
いつもリボンがある場所にネクタイがあるのは、ちょっと違和感があるが無いより幾分かましだ。
それに、意外とスカートにネクタイと言うのも合っている。

「これで良し」
「あ…りがとうございます、でもヒバリさんはネクタイどうするんですか…?」
「学ラン着るから問題無いよ、それよりもうすぐSHR始まるよ」
「ぁ、もうこんな時間…それじゃあまたお昼休みに!」

走って校舎に向かっていくツナの後ろ姿を、見えなくなるまでずっと見ていた。
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