パラ

□Glass Dast
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なぐさめるように、見た目とは対照的に柔らかい、20cm近く下にある綱吉の頭をポンと撫でる。
本当は触るつもりなど無かった。言葉だけの筈だった。

『このまま抱き締めたら・・・どうなるんだろうか・・・・・・』

触れてしまえば、今まで封じていた欲望が次々に溢れ出てしまう。
骸はいつしか綱吉をただの友人とは思えなくなっていた。
彼に触れてみたい、抱き締めてみたい、キスしてみたい・・・
いつの間にか、どうしようも無いくらい綱吉に惹かれていた。
骸のソレは友愛から恋愛へと変わっていた。
それでも何とか己の欲を抑えて、他愛の無い話をしながらガラス器具の数々を洗い上げていく。
そのおかげで、長かった“洗い物”にも終わりが見えた。

「あと一個!骸のおかげだよ、ありがとな!!」

そう言ってにこりと笑むと、最後のビーカーに手を伸ばし、水を注ぎ込む。
その手付きは今までのどれよりも軽やかだった。終わりが見えた喜びからだろう。
笑顔を見ると、自分の行動を制御出来なくなった。

「綱吉君・・・」

小さく呼ばれて綱吉は手を止める。声のした方へ向くと、骸が綱吉のあまり日に焼けていない頬に触れた。
何事かと綱吉は目を軽く見開く。

「む、むく・・・」
「ずっと君の事が好きだったんです。これからは、これからは恋人として付き合ってもらえませんか?」

急な告白だった。綱吉の目はますます大きく見開かれる。澄んだ琥珀色の双眸が骸を凝視していた。
動揺のためか、瞳が僅かにだが揺れている。それさえも愛おしく感じてしまうのは重傷だろうか・・・
ぼんやり考えながら頬を撫でると、綱吉の体はビクリと震えた。

「な、何言ってんだよ。オレもお前も・・・男だろ?お前モテるんだしそういうことは・・・・・」

好きな女の子に言えよ・・・皆まで言わずとも。骸には綱吉が言わんとすることが分かった。
それでも、引き下がる気は全く無い。
確かに、寄って来る女子は多かったし、告白も何回もされてきた。
でも、その中の誰とも付き合う気にはなれなかった。
いつでも心の隅には、朗らかに笑う綱吉が居た。

「だから君に言ってるんです!」
「ッ///」

頬から肩へと移った手に力が籠もった。痛みよりも、羞恥の炎が顔に灯る。
今まで何かの冗談だろうと思っていたが、骸の目を見て分かってしまったのだ。
骸は・・・本気だ。

「好きです、愛してます。」

骸は続けざまに愛を紡いでいく。もう止まらなかった。
気付いたら、この瞬間までずっと胸の内に閉じ込めていた全てを、綱吉に投げかけていた。
拒絶される・・・そういった恐怖心から言えずにいた事を全て、だ。

『今日で・・・“友達”もお仕舞いだな・・・』

同性の、しかも友人だと思っていた者から告白されて、普通でいられる筈が無い・・・
距離をとる覚悟をしていると、綱吉が骸を見上げた。顔が赤い。

『これは・・・もしかして・・・』

骸の胸に期待が高まる。己の欲する答えが、綱吉の中にあるかもしれない・・・

「お、オレ・・・・・あぁッ!!?」

しかし、期待は一旦中断せざるを得なかった。
何か言おうとして綱吉は悲鳴をあげた。同時に手に持っていたビーカーが硬質な床に吸い込まれるように落ちていった。

ガシャーン

大小様々な形になった破片の数々は、キラキラと床の上で輝いている。
しばらくその様子を何も言わずに呆然と眺めていた綱吉だったが、すぐに我へと返って欠片に手を伸ばした。
しかし、砕けたガラスは簡単にものを傷付けてしまうものだ。

「触ったら危ないですよ!!?」
「ぇ、痛ッ!!」

ピリリとした痛みが、細い指に紅い線を一本走らせた。
傷付いた毛細血管から血液が漏れ出し、外へと少しずつ溢れ出ていく。
自分の血に若干狼狽えつつ、それでも血を洗い流そうと蛇口に手を伸ばしたが、指先が蛇口に触れることは無かった。
骸に手首を掴まれたからだ。

「・・・放し、て?」

洗えないよ・・・と呟く綱吉の顔は赤かった。夕日の色でそう見えるわけではない。
先程の告白が効いているらしい。
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