パラ

□叶わぬ恋と知りながら…
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あっという間に放課後がやって来た。約束の時間だ。
鞄を右肩に提げて廊下を進む。
放課後と言うだけあって、学校中は生徒達の話し声でざわついていた。
でも応接室に近づくにつれて、辺りは静けさが勝ってきた。
応接室のある廊下なんて、何の音もしない。
ただ窓の外から柔らかい風が木の梢をゆったりと揺らす音と、オレが歩いてたてる音しかそこには無かった。
『ここが・・・・・・・』
他の教室とは明らかに違うこげ茶色の扉を見上げると、【応接室】と書かれたプレートが目に入る。
朝のヒバリさんの言葉通りならここで間違いは無い筈だ。
変に緊張する・・・
深く息を吸い込んで、ゆっくりと肺の中の空気を押し潰すようにして吐き出すと、ほんの少し気持ちが落ち着いた。
コンコン
しっかりとした造りの扉を二回程控え目にノックすると、すぐに扉が開かれた。

「入りなよ。」

短い言葉で促されて部屋に入ると、ソファーに座るよう言われた。
流石本来は来客をもてなすための部屋。ふっかふかなソファーの座り心地は抜群だった。
暫くソファーに感動していると、ヒバリさんが紅茶を淹れて来てくれた。
あれ、なんだかもの凄くもてなされてる気がするのは気のせいかな?
おかしい、オレがここへ呼ばれた理由は遅刻の罰則の筈。
それなのにどうしてヒバリさんはここまでオレに優しくしてくれるんだ・・・勘違いしてしまいそうで怖かった。
ヒバリさんにこのまま甘えてしまいそうで、怖かった。

「沢田。」

他にも座る所はいっぱいあるのに、オレのすぐ隣に腰掛ける。
それだけだと言うのに、また心臓が暴れ出す。徐々に早くなる心音のせいで、胸の苦しさは増していった。
更に、そっと手を重ねられると、自分より一回りも二回りも大きな手だと言うことに初めて気付く。
そして、オレのものより少しだけ筋張ってゴツゴツしていた。


「僕と付き合ってよ。」


心臓が止まるかと思った。一瞬、言葉と言う物一切を忘れ、何も言葉が紡げずに、酸素を求める鯉のように口をパクパクさせてしまった。
それくらい信じれなかった。

「な、何言ってんですか!!オレなんかじゃヒバリさんと釣り合えません!!」

嬉しいけど・・・辛い・・・・・・オレの気持ちは複雑だった。
折角のチャンスだったけど、それを喜んで受け入れられる程、オレも単純では無かった。
同性同士の恋愛なんて許される筈が無い。ヒバリさんには、“ダメツナ”だから釣り合えないって言ったのだと認識されるのだろう。
それで良い、間違いでは無い。少し黙り込んでいると、重ねられていただけの手が優しく握られた。
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