パラ

□アルビレオ U
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昔、家族4人で訪れた覚えのある黒曜ヘルシーランドはあの時の姿を何処へやってしまったのか廃墟と化していた。一体何年間この状態なのか、不気味な程に廃れている…これでは人々も好き好んで近付いたりしないだろう。
なるほど、溜まり場にするなら絶好の場所だ。俺はまずは古びて錆び付いた柵をよじ登って、ヘルシーランドに侵入することにした。

敷地内に入ってからどれくらいの距離を移動しただろうか…館内に入るまでは荒れた土地が広がり、館内は館内で薄暗く埃っぽかった。おまけに壁や天井にはクモの巣が幾重にも張られている。
そんな場所を移動していると、何人もの黒曜生が手に何かしらの武器を持って襲いかかってきた。どうやらここに首謀者がいるというのは間違い無いようだ。
最初は突進してくる黒曜生を軽く倒していたが、こうも数が多いと疲れてくる。言っちゃ悪いが1人1人は…はっきり言って弱い。
しかし問題なのはその人数だ。一体何人いるんだと言いたいくらいだった。いい加減うんざりとしてくる。溜め息を吐いていると、大柄な男が鉄パイプを降りかざしているのが目に映った。それが合図かのように、男達が何人も飛び出して来る。様々な方法で繰り出される。
俺は近くにいた奴のみぞおちに1発入れて、そいつの背中を踏み台にして1回転しながら飛んだ。周りを黒曜生に囲まれていて、攻撃から逃れるにはそうするしか方法が無かった。
「ハァッ!!!」
敵の陣形…な
んて大したもんじゃないだろうけど、それが崩れてからはやはりあっと言う間だった。

足元には動かなくなった男達の体がいくつも横たわっていた。そいつらに目もくれず手当たり次第に扉を開けていった。しかし、どの部屋も蛻の殻だった。人一人どころか、ネズミ一匹だっていそうに無かった。
『はぁー…ここもはずれか…』
いい加減に疲れてきた体を引きずって俺は次の扉に手をかけた。
するとその時だ、ゾワリとした悪寒が背筋を駆け抜けた。
『今の…何だったんだ……』
しかし、辺りには相変わらずクモの巣が幾重にも張られた天井や、倒れた男達が広がるばかりだ。思い切って扉を押し開けると、やっぱりと言うか、薄暗い部屋の中には誰も居なかった。
『はずれ…か…』
何の手掛かりも無さそうな場所に何時までも居ても仕方ないので部屋から出ようと踵を返す。すると、いつの間にか男が目の前に立っていた。
『こ、こいつ何時の間に!!?』
すぐに後方へと飛び退くが、男の姿を見失ってしまう。一瞬だったせいで確定は出来ないが、その男があの日…1ヶ月前に助けた黒曜の男子生徒のように見えた気がした。
『そんなはずは…』
しかし、否定なんてしきれない。俺はあの男子について何も知らないのだから…と言った風に周りを見渡しながらあれこれ考えていると、首に軽い衝撃を感じた。意識が遠のいていき、視界が霞む。「いい反応でしたね、ですが後ろがおろそかですよ?」
「そ…な……」
一瞬だけピントが合ってはっきり見えた男の姿は、間違い無くあの男子生徒だった。男は素早く腕を伸ばし、俺を抱き止めてくる。
意識を完全に失う寸前に、頭が少しだけ軽くなった。
『ヤバ…イ…』
押さえようと手を動かそうと足掻くが、体はピクリとも動いてくれない。
「おや?」
男の驚きを含んだ声に俺は悟った、ウィッグで隠していた長髪が
姿を現したのだと。ここに、もし並中生が来るような事があれば終わってる…そう思っても動かない体をどうする事も出来ない。
「ようやく手に入れた…」
男の喜色と残酷さを孕んだ声が最後に響いた。でも、俺にはその意味を汲み取る事は出来なかった。
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