パラ
□春の訪れ
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屋上のフェンスに両腕をついて、青々とした雲1つ無い空を見上げていた。風が琥珀色のふわふわした髪を撫で上げる。
少女の頬には、涙の伝った跡がうっすらと残っていた。
先程まで、泣いて泣いて塞ぎ込んでいたのだが、今は大分落ち着いている。
『応援してくれた凪には悪いけど・・・』
「諦めるしか無いよね・・・」
声に出すと、幾らか心が軽くなった。綱吉は忘れる事にしたのだ。
骸の事、骸が好きだった事、それらの気持ち全てにけじめを付けて、忘れ去る決意を固める。
彼が卒業して、この学校を去ってしまえば全てが終わり。また明日からいつも通り。
「諦めよう・・・それで全部忘れよう・・・・・・」
「何を・・・諦めるんですか?」
突然背後からたずねられて、肩が震えた。
振り向こうにも、フェンスと人の間にガッチリ挟まれている。と言うより、背後からしっかりと抱かれていた。
「何を忘れるんですか?」
男は更に問掛ける。優しい声色で言いながらも、綱吉を抱く手に力が籠る。
「六道、先輩・・・何でここに・・・・・・」
綱吉は唯一自由な手で、目の前のフェンスをギュッと鷲掴む。
意中の相手に抱き締められて、心臓が破裂するのではと思っていた。
鼓動が煩い・・・・・息も苦しかった。呼吸の仕方を忘れてしまったかのように苦しかった。
「勿論君を探して・・・」
甘く、うっとりするような声で囁かれて、耳まで赤く染まった。
顔が熱って仕方ない。綱吉は妙な気持ちに支配されていた。
嬉しい、幸せ!と思う半面、何故?という疑問が生まれる。
骸には第2釦どころか、制服をあげるような恋人がいる(らしい)のに何故自分に構うのか、綱吉は複雑だった。
もしかしたら、骸は凪に言われてこうしてくれているのかもしれない・・・でもそうだとしたら、その行動は綱吉にとって辛い以外の何物でも無かった。
「何で・・・オレ何かを追い掛けて?六道先輩には好きな人、居るんでしょ?」
疑問をそのままぶつける。言ってしまった後に後悔した。答えを聞いたら、きっと泣いてしまう。
聞きたいと思う気持ちと、聞きたくないと思う気持ちとが、互いに衝突して綱吉を苦しめていた。
「これでも分かってもらえませんか・・・?」