小説

□Now that you are here...
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ハッと我に返ると、いつの間にか黒曜ヘルシーランドの前に立っていた。昼に来ても不気味だったソコは夜になると更に不気味さを増していた。
ボロボロになって崩れかけている建物は何処かお化け屋敷の類を連想させる。

『あっ・・・あれ!?何でオレここに来てんだ!!?』

黒曜ヘルシーランド・・・以前骸達と闘った場所。
こんな所にどうして自分が無意識に来てしまったのか、まして自分は自宅を目指していたはずなのに。
しかし、考え事も途中でやめなければならなかった。
ガサリと木の葉同士が擦れる音に「ヒィッ!?」と声を上げて綱吉はビクビクと振り返る。
ただで無くても月が無くて暗い夜、ちょっとしたことでも大きな恐怖を与える。
綱吉はあまりの恐怖で目尻に涙を滲ませた。
木の葉同士が擦れる音に加え、足音らしきものがどんどん近くなってきて、いよいよ綱吉は恐怖で縮み上がった。

「こんな時間に誰かと思えば・・・どうしたんです?綱吉君。」
「ぇ・・・むく・・・ろ?」

音の主が骸だと分かると、一気に緊張の糸がほどけたのかヘナヘナとその場に座り込んでしまった。
そこを骸に受け止められる。

「もしかして僕に会いに来てくれたんですか?」
「そんなわけないだろ!?気が付いたらここに立ってたんだよ;」

いくら力が抜けているからと言って、心底嬉しそうな骸の言葉をしっかりと否定することを忘れない。

「そうですか、無意識に来てしまうほど思ってくれていたんですね。」

嬉しいですと綱吉を抱く腕に力を込めれば苦しいのか身をよじる。

「違うから;;それより骸!!苦しい、苦しいから!!!;」

綱吉が涙ながらに訴えると骸はわずかに腕の力を弱めた。
しかし、ほっと安心したのも束の間。
今度は顎を骸の細長い、器用そうな指に持ち上げられた。
この先を大体予想出来ている綱吉はなんとか逃れようとするが、体をがっちりと抱かれていてどうすることも出来ない。
唇を唇で塞がれ、これはまずいと直感が告げる。
骸の舌が唇を割って口内に侵入しようとしたところでなんとか力一杯突き飛ばすことに成功する。

「ゃ、やめろって!!!」

ごしごしと唇を袖で擦り、綱吉は声を荒げた。
別に骸にキスされるのは初めてでは無いがどうしても慣れない。
寧ろ慣れたくもないというのが綱吉の心情だった。

「そんなに嫌がらなくても・・・まぁいいでしょう。」

少し残念そうな顔をしながらもあっさりと諦めた骸はそれでも何処か怪しく笑っていた。
何か良からぬ事でも企んでいるのだろうか・・・そう考えさせられる笑みだ。

「ねぇ綱吉君、僕とゲームをしませんか?」
「げ・・・ゲーム?」

突然の提案に、何を考えているんだという目を骸に向ける。
当の骸はそれはそれは心底楽しそうに笑っている。
骸は更なる説明をするために口を開いた。

「そうです。これから10分間、綱吉君に逃げる時間をあげます。そして僕が君を追いかける。制限時間は逃げる時間を含めて1時間、範囲は特にはありません。」

説明をされたところで何故骸といわゆる鬼ごっこをしなければならないのかイマイチ綱吉には分かっていなかった。
しかし、骸の次の一言に超直感が働いた。

「勝てたらもう今後キスもしませんし、付きまといません。・・・ですが、負けたら・・・一生僕のモノになってもらいます。」

風が吹き、ざわりと草木がざわめく。
よく考えてみると綱吉にはほとんどメリットのない条件だったが、今の彼には考える余裕などというものは無かった。

【逃げろ!!】

超直感が綱吉に命令する。
骸は怪しさを含んだ笑みを浮かべ、見下ろしている。
瞳は何処までも本気だ。
一歩・・・また一歩と後ずさり、ヘルシーランドの出入り口まで辿り着くと一気に地面を蹴って外へ駆け出した。
綱吉の頭の中にはとにかく逃げることしか無かった。
今は少しでも遠く・・・骸に追いつかれることのないところまで逃げることに全意識を注いでいた。
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