小説
□骸さんと綱吉君の攻防戦シリーズ2
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少し日が沈み始めた放課後、綱吉は校門前で待ち伏せしていた某パイナップル、基骸によってデートをする事になった。
綱吉を連れ出す事に成功して骸の機嫌はすこぶる良かった。
だがそれと正反対に、強引に連れて来られて綱吉の機嫌は少しだけ悪かった。
それでも、恋人である骸を邪険に出来る訳など無く、溜め息を1つ吐いて骸について歩いていた。
『骸さんと綱吉君の攻防戦〜少し尖ってみたバレンタイン編〜』
骸に連れて来られたのは、彼らの拠点でもある黒曜ヘルシーランドだった。ガラリとした室内には誰も居ない。
犬も千種も髑髏も何処かに行っているのだろう。完全に骸と綱吉は2人きりだった。
「今日何の日だかご存知ですか?」
ふと骸が訊ねてきた。綱吉の目の前の、小さな机の上に飲み物が置かれる。
「・・・確かどっかの何とかって言う司祭さんの殉教した日だっけ?」
まだまだ機嫌が直って居なかったため、意地悪を兼ねて答えた。頬杖をついてそっぱを向く。
骸の言いたい事を綱吉は気付いていた。彼が求めている答えは間違いなく“バレンタインデー”だ。
でも言ってやらない、と意地になっていた。
「半分合ってるけど半分違います!!って言うかその知識は一体何処から!?」
「リボーン。」
自分の家庭教師である赤ん坊の事をチラリと思い出しながら綱吉は言った。
確かにこの話を教えてくれたのはリボーンだ。
「おのれアルコバレーノ・・・次に遭った時は・・・・・」
「・・・はぁ、分かってるよ。バレンタインデーだろ?」
ぶつぶつと悔しそうに呟き出した骸を見て、綱吉は盛大な溜め息を吐く。
これ以上の意地の張り合いは無意味だとも思った。
「そうです、その通りです!」
途端に骸は笑顔を綱吉に向けた。その笑顔はいつも以上にキラキラしている。何か考えていそうだ。
だがそんな事より、綱吉には気になって仕方が無い事があった。
「ところで骸・・・その格好は?」
ツッコミを入れるべきが、入れないべきか・・・散々迷った結果、綱吉はついに疑問を口にした。
本当は何時着替えた!と言ってやりたかったが飲み込む。
「あぁ、これは“チョコの精”コスです。」
「・・・ごめん、帰ってもいいかな・・・ちょっと寒気が・・・・・」
本人は至って真面目だったらしく、普通に答えられて綱吉はドン引いていた。
実際、悪寒で背筋がゾクゾクといっていた。
「!?酷くないですか!!?ちょッ、何鳥肌まで立ててるんですか、君相当失礼ですよ!?」
「だって何なんだよソレ!ハート付きのわっかとか妙にファンシーな杖とか極め付けの羽根とかーッ!!!しかも全体的になんかピンクだし・・・」
ほとんど息継ぎもしないで言い切り、綱吉は呼吸を乱していた。これだけの台詞を噛まなかった事を褒めてもらいたい。
「“チョコの精”ですからVv」
「うざッ!意味わかんないし・・・」
返って来た答えに、綱吉はガックリと頭を垂れた。だいたいチョコの精って何だ・・・とツッコミを入れる元気ももう彼には無かった。
更には、『何でこいつと恋人になったんだろ・・・』という、少しばかり禁句めいた疑問までもが頭を掠めていた。
「とにかく!今日がバレンタインデーだと知っているなら僕が言いたいことが分かるはずです。」
格好はそのままだが、急に真顔になって、探るように言った。綱吉は不意打ちを喰らってしまい、顔を背ける。
どんな格好をしていても、骸のこの顔には弱かった。恋というものは恐ろしい。
「お、男のオレからチ、チョコ貰いたいって言うお前の気持ちが分からないよ・・・・・」
「僕たち恋人同士でしょう?それに、好きな人からこういう日に貰えるって嬉しいじゃないですか。」
「ぇ・・・・・///」
幻覚を解いて、いつも着ている緑色の黒曜中制服に戻しながら言った。にっこり、擬音が付きそうなくらい綺麗に微笑んだ。
綱吉は自分の頬に熱が集まってくるのが分かって戸惑った。赤くなる頬を隠してくれる物は何も無い。
「僕にそのチョコ、くれませんか?」
そう言って骸が指差したのは、足元に置いていた並中指定の鞄だった。
ファスナーの隙間からは、落ち着いた色合いのラッピングが少しだけ見えていた。
恥ずかしさで頬の熱が爆発する。鞄から件の包みを取り出し、じっと見つめる。中身は勿論チョコレートだ。
次に骸をチラリと見遣った。ニコニコと相変わらず笑っている。
「綱吉君?」
何の行動も起こさない綱吉を不思議に思い、骸が首を傾げる。
暫くして、何かを察しって綱吉の横に座った。琥珀色の柔らかな髪をそっと掻き撫でる。
「えっ・・・と・・・・・/// ほらよ!!!」
隣に座った骸に、綱吉は持っていた包みを押し付けた。序盤の不機嫌さなんて既に何処かへ消えていた。
ただ、今は骸のせいで心拍数が凄い事になっていた。
『渡すだけでこんな・・・心臓壊れそ・・・・・;』
骸は、胸を押さえて頬を赤らめる綱吉の姿に苦笑していた。その華奢な身体を抱き込んで、旋毛に口付ける。
「ありがとうございます、愛してますよ。」
「ぅっ・・・お、オレも・・・・・///」
こうして今年のバレンタインデーは、チョコよりも甘い日になったのであった。
【END】