□星の呪縛
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耳元で囁かれた声に葉の身体はぶるりと震える。くすぐったくて目を閉じると、それを楽しむように自分と同じ茶色がかった黒髪を優しい手つきでかき混ぜた。

「で、どうする。行く?行かない?」

すっかり大人しくなった葉にハオが訊ねる。

「…行く。オイラもお前と一回、ゆっくり話をしなきゃなんねぇと思ってた所だし…うわぁッ!!?」

葉が全てを言い終わるのを待たないでスピリット オブ ファイアの巨大な手が二人を持ち上げた。そのまま手は上昇を続け、己の肩の高さでようやく止まった。突然の出来事に驚く葉の手首をハオはしっかり掴んで肩に乗り移る。双子で、殆ど体格差など無いように見えるのに、ハオの力は強くて葉を更に驚かせた。同時に巫力以外の差も思い知らされた。

「じゃあ行こうか。僕から離れるんじゃないよ?」

スピリット オブ ファイアは星空の下へと飛び立った。


一時間くらい空を飛び、元居た広場へ帰って来た。最初はハオに“何故人を簡単に殺すのか”とか“シャーマンだけの世界を作る理由”などを聞くつもりでこの『散歩』に同意したのに、肝心な事は何一つ聞けず終いだった。逃げ場の無い星空の下で、ハオは双子の弟に対して甘い愛を囁き続けたのだ。しかも、混乱して頭が回りきらない内に唇まで奪われた。

「もうお前とは二度と散歩に行かん!」

地上に降りて一言目に葉は言った。恥やら何やらで顔が赤くなり、それを見られたくなくて顔を必死になって背ける。ハオの言動を理解したくなかった。それ以上に、数々の告白や、不意打ちのキスでさえ満更でもないと少しでも思ってしまった自分が嫌だったし、気付かれたくもなかった。

「そんな赤い顔で言われてもなぁ。」

葉の様子にハオは笑う。その場に居たくなくて、葉は元来た道を駆け出した。

「またおいで。葉ならいつでも歓迎するよ。」

後ろからハオの声が聞こえた。あれだけ拒絶したのに、またいつかあの場所に行ってしまいそうで…いっそあの広場へ続く道も何もかもを全て忘れてしまお、うと葉は脇目も振らず走り続けた。



―忘レル事ナド出来ハシナイノニ


《終》
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