パラ

□Glass Dast
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『Glass Dast』



日が暮れ始めていた。教室の西側には窓があり、それらから茜色の光が差し込んでくる。
手元に口部分をふせて置いたビーカーは、茜色を吸収して影を作っていた。

『もう・・・夕方か・・・』

ビーカーを洗う手を止めて、綱吉は時計を見た。既に五時を過ぎている。
下校時刻の六時まであと一時間も無いと言うのに、洗わなければならないビーカーや試験管は山ほどあった。
この“洗い物"は所謂罰掃除だ。思わず溜め息が漏れてしまう。

『こんなことなら寝なきゃ良かったな・・・』

心の内でぼやいてみるが、食後に来るあの強烈な眠気に勝てる自信が無かったため、もう一度深く息を吐いた。

『骸に悪いことしちゃったな・・・』

骸は中学に入ってから出来た唯一の友人だった。
今日も一緒に下校する約束をしていたのだが、“洗い物”のせいで流れてしまったのだ。
終わるまで待つと言われたが、いつまでかかるか分からないし、何だか悪い気がして断ったのは、放課後になってすぐの事だ。
はぁー、と何度目になるか分からない溜め息を吐き、試験管を手に取った。蛇口を少しだけ捻り、溢れないように慎重に水を注ぐ。
半分にも満たない所で水を止めると、用意されていた細身のブラシを挿し込んで内側を擦った。
キュッキュッと音をたて、洗浄されていく。そしてブラシを引き抜いて中を水で濯げば、やっと一本完成だ。
洗ったばかりの試験管を指定されたカゴに入れて、次の試験管に手を伸ばすと何者かに、横からそれを奪われた。

「ぇ?」

隣を見上げると、赤と青の視線とぶつかる。

「骸・・・?帰ったんじゃ・・・・・?」

そこには居るはずの無い骸が、試験管を片手に立っていた。いつもの笑顔で綱吉を見ていた。

「手伝いますよ。」
「でも、悪いよ!」
「このままじゃいつまで経っても帰れないでしょう?」

言われて綱吉は、うっと言葉を詰まらせる。洗わなければならない物はまだまだたくさんある。
どう頑張っても自分一人の力では終わりそうにない。
骸の言う通りだった。何だか泣けてくる。

「じゃあ・・・お願いするよ。」

結局、骸の言葉に甘えることにした。
手伝ってもらえる喜びと、巻き込んだことへの罪悪感とが綯い交ぜになり、綱吉は苦笑を浮かべる。

「手伝ってもらっちゃってごめんな?」
「構いませんよ。それに二人ですればすぐに終わりますよ。」
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