ちぇりーぶろっさむ

□歌えればそれで良いのさ
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空座第一高等学校、第二音楽室。

『その日はー随分と平凡でー、
当たり障り無い一日だった♪』

「暇つぶしに聞いてたラジオから
あの話が流れ出すまでは♪」

『「“非常に残念なことですが、
本日地球は終わります”と
どこかの国の大統領が
泣きながら話をするまではー…♪』」

『窓の外は大きな鳥たちが空覆い尽くしてく渋滞中♪
三日月を飲み込んでどこかへと向かってる♪』

「やりかけてたゲームはノーセーブ、机にほぼ手つかず参考書♪
震える身体をいなす様にすぐにヘッドフォンをした 」


『不明なアーティスト項目の
タイトル不明のナンバーが
途端に耳元流れ出した♪』

『「“生き残りたいでしょう?”」』


『蠢きだす世界会場を♪』
「波打つように揺れる摩天楼♪」
「『紛れもないこの声はどう聞いても
聞き飽きた自分の声だ♪」』


「“あの丘を越えたら20秒で
その意味を嫌でも知ることになるよ。
疑わないで。”♪」


『「“耳を澄ませたら20秒先へ”ー…♪』」



っ、と息を止めるように歌を切る、同時に流れていた音楽が止む。
パチパチ、と一人分の手を叩く音がした。

『いーちゃんっ師匠っ、今日はどうだった?』
「うん、いい感じなんじゃないかな。」
「ああ。悪く、ない。」
「かははっ俺も歌ったってのに随分普通な感想だな?」
『そんなこと言っても人識だって週に一回は歌うくせにー。』
「おいおい琉威…、これでも俺前は歌うの苦手どころか嫌いだったっつーのに…。」

ていうか正直聞いといて何だけどいつも通りだよね、と笑う。
因みに今の歌の演奏は師匠こと零崎曲識と現在歌を歌っていた零崎人識、そして最後にこの私、霞乃琉威である。
勿論私と人識は歌と演奏を両立していた訳だ。
(人識については前世放浪生活をしていた頃に『どうせ暇なんだろこのニートが!』と言って音楽技術を叩きこんだ。)

『ていうか元殺人鬼一賊だったのが癒しのほのぼの風景らしき物を作り上げてるって凄くないかな?』
「まぁ、元だし。」
「つーか俺たち本人の方が吃驚だっつの。
まぁ曲識の兄貴なら別にありえっかも知んねーけどな。」
「だが、こういうのも、悪くない。」

…まぁ師匠は《逃げの曲識》って呼ばれてたくらいだからって訳じゃないけどそれは容易に想像できるなぁ、と思いながら続ける。

『にしてもあれだよね、ほんっとう潤ちゃんは凄いよねぇ。
さっすが《人類最強》、僕の無謀な依頼をやり遂げちゃったし。
真心ちゃんでもこんなの真似できないでしょーに…。』
「あー…、まぁ、そりゃあ…」
「哀川さんって寧ろこの世界でもできないことがあるのかは怪しいよね。」
『本当、僕が死に際に言った遺言もどき、本当に請け負っちゃうだなんてねー。』

死に際、というのは本当に馬鹿みたいな油断により生まれたモノだったので私の一生の恥とも言えるくらい恥ずかしい記憶だったりするのでその辺りは割合させてもらうが。
本題はその遺言もどき、なのだ。

『あー、折角みーんな仲良くなってきた頃だったのになぁー…。
実にもったいない、死様だなあ…。
…もっとみんなと仲良くしてたかったな、戯言抜きで。』


まさか潤ちゃんがそれを異世界に転生なんて形にまでして叶えちゃうとか、本当にあの人何者だよ…。
裏世界の奴らに聞いたらどうせ《人類最強の請負人》とか《赤き制裁(オーバーキルレッド)》とか《砂漠の鷹(デザート・イーグル)》とか妥当な答えが帰って来るんだろうが。

『ていうか、最近平和だよね。』
「あー、確かにな。
いーたんの《無為式》とやらも転生してからかなり薄まったみてぇだしなぁ。」
「それを言うなら零崎の殺人衝動なんてもう見る影もないけどな。」
『できれば人識の顔面刺青とかも消えて欲しかった。』
「琉威、止められなくて、すまない…」

しゅんとする師匠。
か、可愛い…!
そんな師匠が可愛くて慌てて訂正した。

歌えればそれで良いのさ。
(零崎一賊が血縁の兄弟になったり)
(転生した人が全員おなじアパートに住んで仲良しこよししてても)
(歌えなかったらそれは僕の存在の否定を意味するのだろう。)

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