彩雲国

□The first love.
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「秀麗様?ぼーっとなさって、お加減でもお悪いのですか?」
貴妃付きになった女官が心配そうに秀麗の顔を覗き込む。

「何でもないわ。ただ、昔のことを思い出していただけよ。」
彼女はどこか寂しそうに、それでも懐かしそうに言う。

「昔のこと・・・、でごさいますか?」

「ええ。そう。今から思えば、――――だったかもしれないわね。」
そう言って彼女は綺麗にほほ笑んだ。



カチャリ。
府庫の扉が開き、1人の女性が入ってきた。
この国唯一の女官吏である、紅秀麗である。

誰かいるのかしら?こんな真夜中だから誰もいないとは思ったんだけど。

府庫の机に突っ伏した状態で誰かがいることは分かった。
府庫の中は真っ暗であまり人がいることを感じさせない。
そのため、夜目に慣れるまでそれが誰だかわからなかったが。

そろそろと近づいてみる。
そこにいたのは、彼女の師である李絳攸が突っ伏した状態で寝ていた。

絳攸様だわ。吏部はお忙しいものね。府庫で寝るなら寝るで寝台をお使いになればいいのに。
秀麗は半ば呆れた思いで、自分の師をみつめる。
彼女も大概仕事の鬼だが、絳攸はそれ以上かもしれない。

夜目にも絳攸の顔色は良くなく、元々色白の肌はより一層抜けるような白さであった。

彼と一緒の舞台に立てることを誇りに思う。
しかし、どこまでいっても、絳攸様の目には仕事しかないのね。
官吏になる前から分かっていたことだが。


チクリ、と胸が少し痛んだ―――。

私も少し疲れてるのね。
だからよ。こんなに感傷的になるのは。

そう思い、その時彼女は開けかけた気持ちを見て見ぬふりをした。



貴妃となった今思い返す。
あの時、抱いていた淡い気持ちは、もしかしたら初恋だったのではないかと―――。

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