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□とりあえず――、
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「フェアリーまたやったの?!」
「マジぱねぇなあいつ!!」
ぶははは、と、豪快に笑いあう男子生徒。
元気いいねぇ若いもんは。ま、オレも16だけどね。
「―――で、ここを通ると中庭な。」
「うーい。」
「そこは『はい』と言いなさい『はい』と。」
「はいはー、」
ガッショガッショガッショ――――、
「――い…、」
「くぉら津田ぁぁ!!」
今しがた通り過ぎた奴の背中が揺れる。が、振り向きはしない。
てか脚立持ってよく走れんなあ。
背丈は160くらいだろうか。爆発したかのようなその髪はふわふわと柔らかそうで、一瞬見た正面は長い前髪で良く分からなかった。それでビシッと制服来て猫背なら根暗と呼べるんだろう。が、そいつは制服を気崩して袖を折り曲げていて、これから日曜大工ですって感じ。おまけにシャツを仕舞っていないのと、しわくちゃなお陰で一見だらしない。
「津田!!」
転入を控え、書類提出を兼ねて見学しに来た俺を案内していた教師がソイツに怒鳴る。固まったまま動かない事をいい事にズンズンとソイツに近づいた。
が、突如、
ガシャン、ガシャガシャガシャ
津田と呼ばれる生徒は脚立によじ登り、一番上に平然と立ち上がって背伸びをし、高々と手を上げた。その手には、カメラ機能をオンにしたケータイ。そしてそのフレームに収まるのは、笑い合う男子生徒二人。心なしか二人とも照れているように見える。二階の廊下を歩いていくその二人をフレームに収めたまま、カシャッとシャッター音が響いた。
「津田あ!!」
くるり、と初めて彼が振り返る。
ふわっとタイミングよく吹いた風で一瞬その津田の顔が見えた。イタズラが成功した様にニヤッと笑い、切れ長の目が細められる。なんつーか、美人と可愛い子を足して割ったような中性的な顔立ちの少年。先程までだらしなく見えていたシャツが羽のように風になびく。
その姿に、軽く見惚れた。
教師を認識した彼がハイ、と言うように片手を上げて挨拶をする。もうその表情は長い前髪でみえなかった。
「ハアイ、じゃなくてだな津田!!」
ガミガミと小言を言い始める教師もといセンセーをよそに、彼がチラリとこちらを見たのが分かった。
すると自らの腕時計をトントン、と指差し再びオレに視線を向ける。
「あ?あ、あぁ悪いな千秋、もー少し…」
ガシャン ガシャガシャガシャ
「あ、おい津田!待てまだ話は…おい聞けこらあ!」
一瞬の間に移動して脚立を使い、一階の開いていた窓から校内に侵入する津田。センセーがそれに追い付く前に脚立も向こう側へと移動する。割りと素早い。
窓をきちんと閉めてから、彼はバイバーイと意気揚々と手を振って去っていった。
「津田ぁぁあ!!」
センセーが必死に窓越しに叫ぶが、聞いてないだろ、あれ。
「…随分と個性的な生徒さんダネ、センセ。」
「個性的だけで話が済むんならいいんだがな…」
反省のポーズで項垂れるセンセー。
それはさておき、
「あいつ名前なんてーんですか?」
なんか知らんが面白い。
気にならない訳なかった。
「津田はえーと、下はなんだったかなあ」
「え、…センセ酷くね?」
「俺はアイツのクラス受け持ってないっつーの。てかアイツの場合通り名の方が有名と言うかなんと言うか…。」
津田と会ってから砕けた感じが更に砕けたセンセーに好感を持った俺はすかさず訊ねる。
「なんスか通り名って。」
「一番良く聞くのはフォレストフェアリーかな。」
「…は?」
意味わからんくて固まったのは、言うまでもない。
無口な恋のキューピッド 司side
〜とりあえず、なんでもいいから隣に居る俺を、構ってください。〜
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