創作物
□百物語抗争後
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百物語との争いに勝った奴良組――――――
あれから何週間がたった奴良組にはリクオの母、若菜意外の人間が頻繁に出入りしていた。
「奴良君!今日は黒田坊という妖について詳しくしりたいんだが」
「黒はそうだなぁ…」
動画でリクオの正体を知った清継は、畏れを抱くどころかますます妖怪に、主と慕っていたリクオに興味を持っていた。暇を見つけては奴良組にやって来て、側近たちについてリクオを質問攻めにしている。
そしてもう一人…抗争に巻き込まれ、守られる立場にいたカナも時間を見つけては奴良組に、夜の姿のリクオに会いに来ていた。
「こ、こんにちは…!」
「あぁ、なんだカナちゃんか…また来たのかい?」
いくら三代目の友人だからといって人間がこうも頻繁にこの屋敷に居るのはあまり良いものでは無い。リクオ自信理解はしていた。しかし、妖怪と知って、それでもこうして会いに来てくれる嬉しさもあり相手に来るな、と強く言い出せずにいた。
「リクオ様、お茶をお持ちしました」
それから…カナや清継が家に訪れるようになってからリクオは氷麗との距離を感じていた。
前は話し掛ければいつも笑顔で振り向いてくれた。
リクオ様リクオ様と言っていつも自分の直ぐ隣に居てくれた。
それなのに…今では自分が話し掛けなければ会話は必要最低限で、笑ってはいるけど何処か冷たい雰因気だった。
「それじゃあまた来ますね!!」
「奴良君!今度は河童について詳しく教えてくれたまえ!」
この日はカナと清継が揃って屋敷に―ー、リクオに会いに来ていた。
「あぁ…またな」
2人を案内をするのはいつも氷麗だった。最初はカナも清継も氷麗に話し掛けてはいたのだが、氷麗の冷たい視線と冷気に畏れを感じ、今では黙って氷麗のあとを歩くだけだった。
氷麗の態度を屋敷の妖怪…特に側近には解っていた。二人の人間は夕方か夜にしか屋敷を訪れないのだ。
休日でも必ず遅い時間にやって来ていた。大方、理由は夜の姿のリクオに会うためだろう。昼のリクオと夜のリクオを同一人物と理解が中々出来ないのか、特にカナは夜のリクオに対しては敬語を使っていたり、大人しい感じに顔を赤らめていることが多く、昼のリクオと話しているときと態度が別人だった。
「え〜っと、及川さん?それとも雪女さん?また来ますね」
「雪女君!次は是非とも君の話も聞きたいものだねぇ!」
屋敷の門で二人はここまで見送りに来た氷麗に別れの挨拶をしたときに氷麗がまともにしゃべった言葉はこうだった。
「……お二人に、少しお話があります。歩きながらで構いませんので少し時間を頂けませんか?」
このときの氷麗の目はとても冷ややかなものであり、何かを決意した目だった。
氷麗がカナたちと歩いて行く姿を見かけたリクオは何事だと思い畏れを使い、後を追っていた。
「手短に申します。金輪際、屋敷に来るのを辞めて頂けますか」
氷麗の言葉に二人は目を見開いた。
「な、何でよ。リクオ君は友達で、会いに来たっていいじゃない!貴方にそんなこと…」
「何故だい?雪女君。僕は純粋に妖怪について」
「……煩いわね。リクオ様の気持ちも屋敷の皆のことも何にも理解しようとしない…自分勝手な人間ね」
二人の反論に氷麗は冷たく言い放った。
「人間に…こうも頻繁に屋敷を出入りされちゃ迷惑なのよ。リクオ様の側近はリクオ様の人間の部分も理解しているわ。でも他の連中はそうはいかないのよ…リクオ様は奴良組三代目になったばかりでまだまだ組は不安定で…リクオ様を良く思っていない連中も多いの。そんな中に貴方たち人間がこうも屋敷に来ればそれだけリクオ様は不利になってしまう。それでもあの方はお優しいから何も言わないのよ」
「だ、だからって私は…!」
「夜の姿のリクオ様が好き、だから会い来ても良いじゃないとでも言うつもりかしら」
「っ…だってずっと憧れててずっと逢いたくて、やっと知り合えたのに」
氷麗はイラついている。氷麗が怒っていたのは幹部の連中の罵声よりもカナのこの態度だった。昼も夜も氷麗にとってリクオはリクオだ。それなのに別人のようだからといって彼女の態度には違いが有りすぎていた。そのことが何より氷麗をイラつかせ、悲しませていた。リクオが今まで大切にしてきたものがこういった形で姿を変えたのだから。
「氷麗の態度は…こういうこと、だったんだな」
突然後ろから見慣れた声を聞いた氷麗は一瞬、声を失った。しかし直ぐに側近頭としてリクオに謝罪をしようと口を開いた。
「リクオ様…今の話を聞いていましたよね?…申し訳」
「氷麗、あやまんじゃねぇ…俺を想ってこその態度や言葉だったんだろ?」
「ですが…!リクオ様のお友達に無礼な発言をしてしまいました」
「はは、俺から離れようとしてたのはこのことを言うつもりだったからか?」
リクオはそっと氷麗を抱きしめ、頭を自身の胸に抱えたのだった。
氷麗の瞳には涙が今にも溢れそうだった。
「だって…!こんなこと言ったらリクオ様に…」
「嫌わねぇし、怒りもしねぇよ…氷麗、悪かった。辛いことさせた」
リクオは氷麗を抱きしめながら彼女の頭を撫でている。カナと清継は何か言葉を発しようとするが二人の雰囲気に圧され黙っていた。
リクオは落ち着いた氷麗を離し、背に庇った。
リクオも解っていたのだ。古しえの幹部や今だリクオに反するものたちが人間が屋敷に来るたびに色々と言っていることも、いい加減組のものに示しが着かないことも、そして何よりその殆どが側近頭の氷麗に言われていたことも。妖怪の道を選んだはずなのに、人間の生活も捨てきれず、ずるずると今日まで来てしまった。そろそろ潮時だとリクオは感じていた。
「俺を怖がらずに会いに来てくれたことには感謝している。だが、こいつの言う通り、もう屋敷には来ないでくれ。人間が頻繁に訪れて良い場所じゃねぇ…組のものにも示しがつかねぇしな」
「で、でも!私は…ずっと貴方に逢いたくて…!」
「……そうか、マイファミリーの頼みだ。解ったよ」
リクオの言葉に反論したのはカナだけで、意外にも清継は理解を示した。
「家長君も理解し理解したまえ、彼は魑魅魍魎の主だ。僕たちが関わってはいけない世界の主なんだ…そうだろう?奴良君」
「あぁ…俺はこれから組を再興してかなきゃならねぇしな。悪いが…」
「私は…!あ、貴方のことが!好き…何です。だからもう会えないってそんなの嫌です!」
リクオはカナの言葉に驚き目を見開き、氷麗が前にそんなこと言ってたなと呑気に考えていた。背中に庇っている氷麗のリクオの着物を掴む手の力が少しだけ強まり、冷気も増えた気がした。
(やっぱり家長はリクオ様を…リクオ様も人間を選ぶのかしら…そしたら私は今まで通りお仕え出来る自信が無いわ…)
「はは、カナちゃん。俺はあんたの気持ちに答えることは出来ねぇよ。妖怪が怖いんだろ?俺や氷麗は人に近い姿をしている。だが中にはもっと恐ろしいのもいる。あんたじゃ無理だ。組内の誰にでも分け隔てなく接することが出来なきゃこの屋敷ではやっていけねぇ…氷麗みたいにな」
リクオはカナにキツイことを言ったが事実だった。彼女に妖怪との共存は無理だ。大人しく人間だけの世界で平和に生きていて欲しいとリクオは願っていた。
「リクオ様…?」
「氷麗、あとで話がある。酒用意しとけよ」
「は、はぁ…?」
「だって・・・!だってぇ・・・」
カナはその場でとうとう泣き出してしまった。しかしリクオは傍に行くことはせず氷麗を促し屋敷へと向かって行く。清継はそんな2人を眺めながらもカナを慰め連れて帰ろうとした。
そんなときリクオに手を引かれていた氷麗は2人に近寄った。
「………屋敷に二度と来ないという約束を守って頂けるのならば、たまにですがこちらから貴方達の元へ遊びに行きます。それで我慢してください」
「大丈夫なのかい?」
「ふふ、リクオ様は人間でもあるんです。そのことをちゃんと理解して下さいね」
氷麗はそう告げるとリクオの元へと歩いていった。
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縁側で、氷麗の酌で酒を飲むリクオは氷麗の最後の言葉に疑問を持ち、問いかけた。
「…リクオ様は人間でもあるんですよ。人間の生活を捨てなきゃいけないなんてこと無いんです…ただ、どちらを中心にして生きていくか、そのためにもう一つの生活との関わり方を学ぶ必要があります。初代も二代目も人間の友人がたくさんいたと聞いていますし…清継君は妖怪にもお詳しいうえに頭も良いのでしょう?お互いを理解出来たとき、とても良い友人になると思ったからです…家長は…リクオ様の好きにして下さい!」
氷麗はいつでもリクオのことだけを考えて行動していた。今回の件も氷麗が憎まれ役を買って出たことでまとまったのだ。そんな氷麗を見てやっぱり好きだと実感したリクオだった。
「はは、カナちゃんのことはホントに何ともおもっちゃいねぇよ…ただ、付き合いがそれなりに長いからな。人間の世界で平和に暮らして欲しいと思っているだけさ」
(俺が好きなのは生涯でたった1人…氷麗お前さ、だけどまだ言えねぇ…愛した女一人守れる男にならねぇとお前に釣りあわねぇよ)
「リクオ様?」
「氷麗…いつまでも俺を守ってくれよ?」
「…!ハイ!!」