創作物

□押してダメなら・・・?
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押してダメなら・・・?

リクオ、高校1年生の春・・・
「氷麗知らねぇか?」
リクオは屋敷の廊下で、通りかかった毛倡妓に夕飯が済んでから見かけない側近を知らないかと彼女に声を掛けた。

「氷麗でしたら、台所に居ませんでしたか?」

「いねぇんだよなそれが・・・最近変じゃねぇか?」

「氷麗がですか?」

リクオは最近の氷麗の態度が以前と違っているように感じ、毛倡妓に変わったことが無いか聞くことにした。側近の中でも特に氷麗と仲の良い毛倡妓ならば思い当たる節があると思ったのだ。

「高校に入学した辺りだな・・・前は俺の同級生がいたときも一緒にいたんだが、最近は学校でも隣にいようとしねぇんだよ」

前まではいつも隣にいてくれた氷麗に、高校に入学した頃から距離を置かれているように感じ、それを寂しく思い、また氷麗にはまだ伝えていないが、ただの側近ではない、恋愛感情を自覚しているリクオは氷麗にいつでも傍にいてほしいと思っているようだ。

「・・・リクオ様は氷麗のことをどう思って?」

「・・・それ、言わなきゃダメか?」

「そうですね・・・言っていただければそれなりの返事は致しますわ」

リクオは少し考える素振りを見せたが、毛倡妓がこう言っているということは氷麗の行動に思い当たる節があるということだろう。そう感じ、自分の正直な気持ちを言うことにした。

「最初は・・・何にでも一生懸命な側近だな、と思ってたんだ。それが・・・3年前の京都で、土蜘蛛に氷麗が浚われたとき、自覚したんだ。俺は氷麗を守りたい、傍にいて欲しい、・・・氷麗の全てが欲しいってな。それなのに、最近はなんか距離置かれてる感じがするし、俺の世話は氷麗がするって決まってんのに、首無とかが替わりに来るんだぜ」

「そうですか、・・・じゃあ将来の伴侶に氷麗を?」

このときの毛倡妓はきっと、そこまでは考えていない、そう言うリクオを想像していただろう。しかし、リクオはあっさりとそれを認めたのだった。

「おお、よく分かったな、人間じゃ18歳にならねぇと結婚はできねぇからな。それまでに氷麗を俺の女にして、18歳になったら祝言を上げる計画を昼の俺と立ててんだよ」

「・・・・・それホントですか!?」

「ああ、本気だぜ、俺は氷麗に惚れてる、考えてみろよ。今さら、あんなに可愛くて、何にもないところで転んだり、世話焼きで、何にでも一生懸命で、俺のこと第一で、それに雪女だからか、時折見せる妖艶な姿を他の男に渡せるかよ。あー、考えただけでぶった切ってやりたくなる」

リクオは自分以外の男が氷麗と並ぶ姿を想像したのか、目が鋭くなり黒い雰因気が醸し出されている。

「あらまあ、やっぱりそうでしたか」

「てことは、屋敷の奴らは大体気づいてるよな?俺が氷麗を特別扱いしてるって」

「ええ、まぁ、氷麗以外はおそらく・・・」

その言葉を聞いたリクオは、やっぱり氷麗には伝わってねぇか・・・、そう呟き項垂れている。

「あんだけ解り易く態度にだしてんのにねぇ、しかも最近は何か距離があるしなぁ」

「リクオ様・・・本当は、本人が直接言ったほうが良いと思います。ですが、氷麗はあの通り鈍感です。それも超、が付くほどの」

「・・・・・毎回夜の散歩に誘ったり化け猫屋にも必ず連れて行ってんだがなぁ」

「ええ、ですから、リクオ様のためにも氷麗のためにも言いますと・・・あの子はリクオ様のことを慕っております。一人の異性としてリクオ様のことを見ていますわ」

「・・・毛倡妓がそう思うってことは、自惚れてても間違いじゃねぇってことだな」

リクオは毛倡妓の言葉に、やっぱり氷麗は俺に惚れてることには間違ってなかったんだな、ん?じゃあなんで距離取ってんだ?そう顔に出ていたのか、彼女は少し呆れ顔でリクオを見ていた。

「側近、だからですよ。リクオ様が成長なさるにつれて思ったのでしょう。主の私生活に側近がどこまで干渉していいのか。少し前氷麗が言っていました。リクオ様のクラスメイトに彼女だと勘違いされていた。ただの側近なのに・・・、と」

「だから、俺から距離を取って・・・本来の側近らしくってか?」

「おそらく・・・あの子の一番はリクオ様ですから。もちろん、組の皆がそうです。ですがあの子は何処までも自分を犠牲にしてしまいますから・・・きっと自分の思いは凍らせて下僕の一人としていようと考えた結果だと思います」

リクオは毛倡妓のその言葉に何かを考え、そしてこう言った。

「明日、母さんに頼んで氷麗と1時間ほど外に出てもらう、そんときに杯交わした奴を座敷に集めといてくれ」

「は・・・はぁ。何をするつもりですか」
「なぁに、氷麗がその気ならこっちにも考えがあるってことさ」

じゃあ、頼んだ。と毛倡妓に言うとリクオは背を見せ、ゆらりと姿を眩ました。大方、見つからない氷麗を探し無理やりでも酌させる気なのだろう。明日は土曜日なのだからまぁいいか、と毛倡妓は思うと残りの勤めを果たしに台所へと向かった。
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