白雪王子

□森
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「あんたさんをこんな場所に連れてきたのだって…、
何するかわからねぇじゃないか。」

「…?
そんな事思いませんよ?
だって僕、嬉しかったんです。
なんだかお兄さんが出来たみたいで…。
それにクリストさんはそんな風には見えませんし…。」



するとクリストが険しい顔で振り向いたと思ったら、
いつの間にか木に体を押し付けられ、行く手を阻まれた。

自分が今どんな状況にいるのか理解できなかった。

いや、人を疑うことを知らない人に理解できるはずがない。

ただ苦しそうな彼の顔を目をパチパチさせながら、見るしかなかった。


「今だってそうだ。
こんな格好してんのに、あんたさんは俺を警戒しようともしない…。」

「クリストさん…?」


体が密着し、息がかかるほど近くなる。

どんどん近づいて、唇が触れるか触れないかの所まで来た。

しかしクリストは一瞬止まり、
一つ大きなため息をついてそのまま膝をつき、
自分の胸に顔をうずめてきた。

何がどうなっているのか、展開が早すぎてついていくことができない。

それ以前に彼が自分に何をしようとしたのかさえ分からなかった。


「クリストさん?
どうしたんですか…?」

「あんたさんは、本当優しいんだな…。
こんな時に人の心配するなんて…。
王とは大違いだな」


小さく自嘲的に笑いながら言うクリストの言葉の意味が分からなかった。

父様がどうかしたのだろうか?

パズルのピースを繋げられない、
そんなようなもどかしさを感じる。


「やっぱ俺には無理だっ。
あんたさんみたいないい奴に手なんて出せるはずがねぇ…。
なぁ、俺と一緒に逃げよう。なっ?」

「にっ、逃げるってどうしてですか!?」

「あんたさん気づいてなかったのか?」

「気づくって…?」

「あぁーっ!!話は後っ!!
とりあえず今は逃げるんだっ。」


じれったそうに頭を掻きむしると、
強引に手首を引っ張り走り出した。

流石村一番の狩人だけあって、力が強い。

逆らう訳にもいかず、ひっぱられるまま走りだした。


手を引っ張っているクリストさえどこに辿り着くか分からない。


ただ果てのない深い森の奥の奥まで走り続けるのであった。
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