白雪王子

□森
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森の中を1時間ほど歩いたが、クリストが止まる気配はしない。

重い足取りで道無き道を歩んでいく。


「クリストさん」

「…。」

「クリストさんっ?」


呼んでも返事をしなかったため、顔を覗いてみる。

そこにはやはり強張った表情のクリストがいた。

自分に気づくと異常に驚き、ぎこちない笑顔を浮かべる。


「どっ、どうしました?」

「驚かしてしまってすいません。
あのずっと言おうとしてたんですが…。
僕、狩りは出来ないんです。
だから今日はクリストさんにこの森の動物について教えて頂きたくて…。」

「えっ…?
あっ、はい!!もちろん…です。」

「ありがとうございます」


そこでまた沈黙が始まってしまった。

落ち葉をザクザクと踏みしめる音だけが響く。

そこで、はっと気付いた。

自分とクリストの足音しかしないのだ。

リスやうさぎ、鹿などの小動物が見えないのは仕方がないと思っていたが、

鳥のさえずりさえも聞こえないのは流石におかしい。


自分かこれからどうなるかというよりも、

どうしてこの森には動物がいないのだろうという不安に襲われた。


第一、この季節に落ち葉があること自体がおかしい。

今は春で新芽が芽生える時期だ。

森の入り口はそうではなかったはずなのに、

周りの木は枯れ果てていた。


「…この森は死んでしまうのでしょうか?」

「えっ…?」

「こんなに枯れ果ててしまって…。
動物達の住む場所がなくなってしまいます。
それじゃあ可哀想です…。」

「あっ…。
あぁ、そうですね…。
そうかもしれない…。」







「…あんたさんは、俺が嫌いですか?」


クリストが背中を向けたまま足を止めた。

唐突な質問に驚き自分も思わず足を止めてしまう。


「嫌いなんかじゃないですよ。
どうしてそんなこと聞くんですか?」

「どうしてって…。
俺は狩人だし、あんたさんの好きな動物も平気で殺しちまうんだぜ?」

「でもクリストさんはクリストさんじゃないですか。
お仕事ですし、仕方ありません。
そんな事で人を嫌いになったりなんか出来ませんよ。
だって今日あったばかりじゃないですか。」


どうしてこんなことを聞くのかと疑問に思ったが、
ありのまま、素直な気持ちを言った。

クリストは手を強く握りしめながら肩を震わしている。

何か不安があるのだろうか、

会った時からそればかりが気になっていた。

おそらくクリストが抱えている不安は、

王子の子守という堅苦しい役を請け負ったからだけではないだろう。
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