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□帰り道
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「高野さんっ!」

「何」

俺は息を詰まらせながら目の前にいる彼の名前を呼んだ。

「あのっ!これ!忘れていきましたよ」

「え?」

「わざわざ届けてあげたんですから、感謝してください!」

これはある口実にすぎない。

思いついたのはつい数分前だった。

会社を最後に出たのは俺だった。

そして高野さんの机に企画書諸々の書類を置き、眼鏡が置きっぱなしなのを気づいたのも数分前。

俺が素直になれず「一緒に帰りませんか」と言えないのは自分自身がよく知っている。

いつも高野さんが強引に誘ってくるか偶然会って仕方ないから帰るかだった。

だから今日は少しだけ素直になって一緒に帰ろうと思ったのだ。

眼鏡さん、ありがとうございます。

そして高野は閉じていた口を開き、

「ありがとう。だけど、」

「?」

「俺、スペア持ってるんだけど。知らねぇの?」

「え?」

知る訳がない。知っていることといえば「眼鏡はレンズが必要」ぐらいしか知らない。

恥ずかしくて俯く。

そして「すみません」とぽつり、と謝る。

「謝る事じゃねぇよ。でも」

俺は顔をあげ首を軽くかしげる。

すると高野さんの唇が俺の唇に重なる。

そして、

「そんなかわいい事すんじゃねー」

「なっ!?」

高野さんは俺の髪をクシャクシャと撫でる。

俺は腕を引かれ誰もいない暗い坂道で抱きしめられる。

徐々に顔が紅く染まっていくのが分かる。

「ありがとう、律」

名前を耳元で囁かれ肩が細かく揺れた。

「どう…いたしまして」




……貴方と帰る事のできる道はありますか?
















 

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