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□遠い日
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たくさんの人が俺の横を通り過ぎる。
黒を基調としたこの真選組の制服は街中にいても分かるだろう。
けれど通り過ぎる人々は目を合わせる事もなく進んでいく。
まぁ、声かけられたらかけられたで面倒で鬱陶しいが。
すると俺の前に不機嫌そうな侍一名。
「大串君?何で居んの、どいてくれやしませんかね?」
邪魔なら横を通ればいいだろうに。
相変わらずコイツの思考回路は理解出来ない。
ま、一生したくないけどな。
俺はひとつ舌打ちをする。
そしてまたコイツは不機嫌そうな顔になる。
「今パトロール中だ。邪魔なら横通れ」
「……あっそ、お前がつまんなそーな顔してっから声掛けたんだけど?何かあったのかよ」
「酔ってるだろ」
コイツの言葉は意味不明だ。
イライラさせる時もあるし同情したり、感心してしまう時もある。
何かムカつく。
だから俺は話をそらす。
自分自身の壁を壊されないように。
そして俺はコイツの横を通り過ぎようと一歩踏み出す。
が、コイツの腕に止められた。
「今、昼。酔ってなんかねぇよ。ま、頑張れや」
そして大きな甘いにおいのする手の平で撫でられ、コイツは歩きだす。
俺はそのまま俯いた。
止めてほしい、鬼の副長が情けない。
一般人に撫でられただけで決心が揺らぐ。
今は攘夷浪士と喧嘩する事が出来なさそうだ。
乱すんじゃねぇ、ぐるぐるとまわるアイツの言葉。
近づいてくる遠い日を自覚するのは早そうだ。
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