book2
□お出かけ
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あれ。
律は、いつものようにリビングの掃除機がけをしていると、テーブルの上には見慣れた茶封筒が乗っていた。
茶封筒の中身を確認すると、昨晩遅くに、担当作家が高野の自宅にFAXしてきたネームが入っていた。
「あ、珍しい。ネーム忘れてる。」
一応、編集部にFAXをして、掃除が終わったら届けようと思い電話に向かうと、電話が鳴った。
ディスプレイで番号をみると編集部だった。電話をとると、予想通りの相手だった。
「はい、高野です。」
『律、俺だが、今日ネームを忘れてきてしまったから、これから届けてくれないか。』
「調度、FAXをいれて、向かうところだったんですよ。」
『悪いな。若菜と一緒だと1時間後くらいになるか』
「そうですね。」
『わかった。会社に着いたら連絡をくれ。ただ、その前に会議が入っているから、俺が出られなかったら、編集部まで届けてくれないか。木佐か美濃が編集部にいるはずだから伝言を残しておく。
その後、一緒に昼飯でも食おう』
「わかりました。一緒にお昼なんて久しぶりですね。近くのあの定食屋に行きたいです。」
『わかった。それじゃあ、気をつけてな。』
「はい。」
そうして、電話を切ると、ソファーに座って、アニメを見ていた、愛娘に声をかけた。
「若菜、これから、パパの会社にお届け物を持っていくから、お外に行く準備をしよう」
「ママ、パパの会社に行くの?」
「そうよ。パパの忘れ物を届けるの。そしてパパと一緒にお昼ご飯を食べよう。」
「やったぁ、パパとママの3人でお昼ご飯が食べられる」
「そうよ、だから早く用意しましょう。」
「はーい。」
元気よく返事をして、お出かけ準備を始める若菜を律は見守っていた。
高野家は自分で出来ることは時間がかかっても自分で最後までさせることにしている。
そうして、若菜の準備が終わって家をでた。
大人の足では、20分ぐらいの距離でも、小さい子供の足では倍はかかる。
のんびり、手をつなぎながら、律と若菜は政宗の会社へと向かった。
そして、丸川本社ビルについた。そして受付で、政宗の呼び出しをたのんだ。
「すみません。エメラルド編集部の高野をおねがいします。」
「失礼ですが、どのようなご用件でしょうか。」
と受付嬢が尋ねてきた。普段なら、律の顔を覚えている受付嬢がいるので、すんなりまわしてくれるのだが、今日は早めの昼食に出かけていなかった。
対応をしているのは律が退職した後に入社した子だった。
律は少し照れながら答える。
「高野の妻です。忘れ物を届けにきました。」
政宗はあのルックスでいまだに未婚だと思われることがある。
特に、律のことを知らない社員にはよく間違われている。
今回もそのパターンだった。しかもこの受付の女子社員は政宗に好意を持っていて何回もアタックをしていたがまったく相手にされていなっかた。
「失礼ですが、高野は未婚のはずです。しかも子供をつれて忘れ物を届けにきたなんてあなたどういうことですか。」
「だから、本当に忘れ物です。これが忘れ物です。」
律は茶封筒を女子社員に見せる。
「中を拝見させていただいても。」
「それは無理です。これはネームなので、関係者以外に見せることはいくら同じ丸川の社員といえども出来ません。」
そんなやり取りをしていると、律の足にしがみついていた若菜が律のイライラした雰囲気に若菜が不安がってきてべそをかきはじめた。
「ママ、パパまだ。」
若菜をだきあげてあやしていると後ろから木佐の声が聞こえた。
律には神の声にも聞こえた。
「あ、律ちゃんこんなところでなにをしているの。高野さんから忘れ物届けに来るって聞いていたのに全然あがってこないから。」
律
は安堵した声で木佐に話かけた。
「助かりました。この子に高野さんの忘れ物を届けにきたといっても信じてもらえないし、若菜はくずりだすし、あせっていたんですよ。」
「そうだったんだぁ。相変わらず高野さんはもてるから、律ちゃんは大変だね。」
「木佐さん。」
からかう木佐に律は抗議の声を上げる。
そんな、律を無視しながら、木佐は、律の腕の中にいる若菜に声をかけた。
「
わかちゃん、こんにちは。」
しかし、若菜は律にしがみついたまま返事をしない。
「若菜、木佐おじちゃんにあいさつは。」
律が意趣返しもこめて若菜にこえをかけると、若菜が律と木佐がかろうじて聞こえるぐらいの声で答える。
「
わかなはわかちゃんじゃないもん。」
それをきいた律はうなだれ、木佐は改めて挨拶をした。
「若菜ちゃん、こんにちは。」
「こんにちは木佐おじちゃん。」
若菜はとびっきりの笑顔で木佐に挨拶をした。
エメ編で飲み会をする場合、若菜がいるためいつも高野の自宅で行っていた。
そのときは木佐はいつも若菜と遊んでいるので、若菜は木佐のことが好きだった。
しかし、木佐は若菜におじちゃんといわれ少しショックを受けていた。
「
律ちゃん、おじちゃんはやめてよ。いつはお兄ちゃんなのに。」
そんなやり取りをしていると受付の女子社員が木佐に恐るおそる声をかけてきた。
「木佐さん。こちらの方は。」
その問いに答えたのは、会議が終えデスクに届いているはずのネームがなく、木佐もいないと思い探しにきた政宗だった。
「以前、エメ編に勤めていて俺と結婚して退職した小野寺律だ。」
後ろから聞こえてきた声を聞いて、律は顔を赤くし、若菜は政宗のほうに体を向けて抱っこをねだった。
そんな若菜を律から取り上げ政宗が若菜を抱き上げる。
ここ最近忙しく、若菜が寝てから帰るという日が続いていたので、若菜は大はしゃぎだった。
そんな、やり取りを律は顔を赤くし、木佐はあきれたように見ていた。
そして女子社員はものすごく落ち込んでいた。
そんなやり取りの中、律は政宗の忘れものを思い出し、手渡した。
受け取った政宗が編集部にネームを置いてこようと若菜を律に渡そうとするが、若菜はしがみついて離れなかった。
そんな若菜にあせりながら、律が声をかける。
「若菜、パパ少しだけお仕事で行かないと行けないからここでママとまってよ。」
しかし、若菜は政宗にしがみついたままイヤイヤと首を振りながら離れなかった。
「ふぅ、仕方ない。木佐、律行くぞ。」
そう言って政宗は若菜を抱き上げたままエメ編へ戻っていった。
そんな政宗の後、律と木佐は追いかけていった。
そうして、3人がさったあと、受付の女子社員は、帰ってきた先輩に話を聞き、失恋を自覚した。
そして、政宗が結婚していることと子煩悩なことは社内に広まったが政宗へのアタックはいまだ減らない。
逆に子煩悩なところがいいと増えてしまった。
そんな、政宗に律が嫉妬したのはまた別のお話。