「あ〜ダルい」
美術準備室に入るなり、香月は安川の机に突っ伏した。
「何? いきなり…」
向い合せの机にベッタリと張り付く香月の柔らかそうな茶髪に見惚れながら拓が聞くと、机の上で手を組んで そこにアゴを乗せながら こちらを向いた。
「5時間目 体育でさ――」
知ってる≠ニ、拓は心の中でつぶやいた。
「サッカーの試合だったんだ。 嫌いじゃないけど、50分走りっぱなしは やっぱキツいわ」
「若いくせに何言ってんだよ。 不摂生ばっかしてるから体が鈍ってるんじゃないのか?」
「不摂生なんかしてないっつーの。 最近はタバコも減らしてるし――」
香月の その一言で思い出した。 以前から、聞きたいと思っていたコトがあったのだ。
「そう言えば、お前、ここでタバコ吸わせろって言ってたけど、一回も吸ったことないよな、何で?」
「…別に、理由なんてねーよ」
何が気に障ったのか 急にぶっきらぼうに言い放つと、フイッと顔を背け そのまま机に向かって伏せてしまった。
(アレ? 今日は、何だか言動が子供っぽいな)
いつからか判らないけれど、以前は大人びた顔しか見せなかった香月が、時々 年相応の(場合によって、年齢より下の)子供の顔を見せるようになった。
そんな態度は、拓に気持ちを許してくれているような気がして、とても嬉しい。
特に今日の子供っぽさは いつも以上で、つい からかってみたくなった。
「なんだよ、拗ねちゃって。 何かあったのか?」
「何もねーし、つか、拗ねてねーもん」