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□『 すくーる でいず 〜 シナモンとネクタイ〜 』 K
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「香月、違う人みたいだな…」

 いつもの制服姿と雰囲気が違う。
 ジャージの裾を織り上げているために、長くて 細い割には筋肉のついた脛が見えた。
 長めの髪は後ろで一つに括られていて、初めて見る髪型だけれど 良く似合っているなと、つい笑みがこぼれ、その途端 ハッとする。

(何、ニヤけてるんだ、俺はっ!)

 ペチペチと両頬を叩いて、ニヤけた顔を元に戻した時、眼下の香月が制服姿の生徒に呼び止められているコトに気がついた。
 制服というコトは同じクラスの生徒ではないというコトだ。
そのまま凝視していると、首を振る香月に生徒が何かを握らせたのが見てとれた。
 大きさや形状から言って、手紙であるコトは間違いないと思う。

(ふうん…ラブレターか? 今時、古風だよな)

 香月がモテるのは知っている。
 クールで大人っぽい外見と、人を見下したような物言いで、初めて会った人には ものすごく憧れの目で見られるか、逆にものすごく嫌われるかという両極端な印象を持たれる香月だけれど、その実 とても世話好きで面倒見がいい。 そして 誰に対しても優しい。 つい勘違いしてしまいそうになるくらい…。
 だから同級生や下級生にモテるし、上級生やOBなんかには一目置かれているようなところがある。
 もちろん、モテるコトを知っているからと言って 嫉妬するしないは まったくの別問題なのだけれど、学校内のコトに関しては拓もあまり気にならない。
 なぜなら、ここは男子校で、香月はヘテロだからだ。
 男からの告白を香月が受けるとは思えない。 だから、安心していられる。

(受け入れてもらえないってコトでは、俺も同じなんだけどな…)

 それでも、香月は美術準備室に来てくれる。 その事実だけで、さっきの手紙の生徒や 他の香月に想いを寄せる生徒達より、ずっとずっと香月に近い所に自分は いるんだと思えて、それだけで十分 嬉しかった。
 香月の姿が昇降口へ吸い込まれるように消えたの確認して、拓も机に戻る。
 少し早いけれど、作りかけだった期末テストの問題の続きをノートパソコンで作り始める。 と、言っても大した作業ではない。 美術の教科書の少ない文章を読んでおけば間違いなく答えられるような文章問題は、採点基準が曖昧なデッサンを描かせるスペースを取るために、数問あれば事足りてしまう。
 受験科目ではない美術は全員が赤点を取らない程度の点数を採れるような問題構成にしておく。 どのみち、成績のほとんどは提出された作品で決まるのだから、テストに重点を置く必要性はない。
 だから、その作業は のんびりやっても、大した時間もかからずに終わってしまった。
 データを安川のパソコンにメール送信して、拓はノートパソコンを閉じた。

「んーっ」

 椅子に座ったまま、リクライニングに体を預けて大きく伸びをした体勢で壁掛け時計を見ると、6時間目の授業が半分終わる頃だった。
 後3〜40分もすれば、香月がやって来るだろう。
 香月との逢瀬を考えると、拓は口許に笑みが浮かぶのを止めるコトができなかった。

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