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□『 すくーる でいず 〜 シナモンとネクタイ〜 』 I
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 ふと、目が覚めた時、拓は自分の置かれた状況を理解するのにかなりの時間を要した。
 ここは どこだ?
 俺は何をしてたんだ?
 今日は、いつなんだ?
 自分が考えているコトさえ不明瞭で、訳の分からない状態が拓を焦らせた。

(とにかく、起きよう。 それから、テレビをつければ、今日が何日なのか解るから――)

 鉛のように重く感じる体を無理に起こすと、体のあちこちが軋むように痛んだ。 その痛みが、昨夜 拓の身に起きた 雄一との理不尽なセックスを思い出させた。

「あ……」

 少しづつ状況を思い出し始めた拓が 辺りを見回すと、そこはリビングではなく 雄一のベッドの上だった。
 いつ、どうやって移動して来たのか、拓にはまったく覚えが無かった。
 寝室に雄一の姿は無く、窓に引かれた分厚い遮光カーテンの端を うっすらと漏れた光が縁取り、カーテンの向こうが朝であるコトを知らせていた。

「……」

重い体を何とか立たせようとベッドから降りた途端、腰に力が入らず、膝が笑い、拓はその場にへたり込んだ。
体はまるで自分の物ではないかのように、不自由だった。
ふと、床に着いた手の先に落ちていた雄一の物らしきシャツを見つけ、引き寄せると 袖を通し、腹の前で小さなボタンを2つ留め、ベッドを頼りに立ち上がった。
今度は慎重に立ち上がったために、倒れるようなコトは無かった。
 
「何時だろ…」

 パソコンデスクの上に無造作に置かれた カルティエのトラベルクロックを手に取ると、その文字盤を見て 拓は思わず声を上げそうになった。
 時計の針は、もうすぐ11時になろうとする辺りを差していた。

「嘘だろ……」

 体が痛むのも忘れて、拓はよろめきながらリビングへ続くドアを大きく開けた。
 それと同時に、ソファに座る雄一が緩慢な仕草で こちらを向くのに対して、拓は大きな声で叫んだ。

「なんで、起こしてくれないんだ! 俺、今日は授業あるんだぞ!」

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