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□『 すくーる でいず 〜 シナモンとネクタイ〜 』 H
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「クリエーター二人で、経営なんて成り立つのか?」

 クリエーターなんて、感性で仕事をするようなタイプの人間に金勘定ができるはずないと、拓は思っていた。 現に雄一は、金銭感覚があまりにアバウトで、放っておいたら将来は野垂れ死にしかねないような浮世離れしたところがある。
 拓が銀行口座を開設してやって、給料天引き貯金の手続きまで終わらせてやったからこそ、雄一には貯金というもが存在するわけで、そうでなかったら 今頃 高給取りの割には、何の蓄えも無いまま生きていただろう。
 それがサラリーマンを辞めて、経営なんて…正直、無謀以外の何ものでもないと、拓が眉根を寄せた時だった。

「だから、拓、お前も学校辞めて、うちに来い」

「は?」

「クリエーター同士の共同経営なんて、確かに無茶な感じがするのは俺にだって解る。 でも、ちゃんとした会社にするんだ。 営業は、掛居さんが優秀な人を引っ張って来るって言ってるし、金勘定は俺の親父の知り合いの会計士に依頼することになってる。 もちろん、俺の実力なんて、業界じゃまだまだなのも分ってるから、初めのうちは掛居さんの世話になる様な形だと思うけど、それもすぐに挽回してみせる。 だから、拓、お前も来い」

「待てよ、そんな急に…っつか、俺なんて何の役にも立たないのに、どうして――」

「役に立つとか、そんなのは関係ない。 拓には、俺のアシストだけをしてもらうから」

 拓を見下ろす雄一の顔には笑みが浮かんでいた。
 ここしばらく見たコトのないような優しい笑顔に、拓の胸は酷く痛んだ。

「な、んで? 望まない教師の仕事を嫌々やってる俺が可哀そうだから?」

「そんな風にとるなよ。 俺はただ、つまらない世間に揉まれて拓が変わって行くのが嫌なだけなんだ」

「つまらない世間に揉まれて、純粋さをなくして、不平不満をため込んでる俺なんか、嫌いだってコトか…」

「そうじゃない。 俺は お前が好きだよ。 本当に大切だと思ってるからこそ、変わって欲しくないんだろ?」

「変わった俺は、もう俺じゃないのか? 雄一の好きな俺って、どんな俺なんだよ。判んないよっ!」

「俺は、ただ拓に綺麗な気持ちのままで居て欲しいだけだ」

「…何にもできない俺は、何もしないで、変わるコト無く ただ雄一の隣で笑ってればいいってコトなのか? そーゆーのなんて言うか知ってる? …飼い殺しって言うんだぜ?」

 途端に頬を平手で打たれた。

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