「な…に?」
「望んでもいないサラリーマン教師なんてやってるから、お前、ダメになるんだ」
望んでもいないサラリーマン教師。
偶然とはいえ、たった今、自分がそう思った通りの評し方をされ、拓は唇を噛みしめた。
結局、誰の目にも そう映っていたのだ。
そう言えば、以前も 誰かに、やる気もないのに教師をやってるのは生活のためか、と聞かれたコトがあった。 あれは誰だったろう?
「俺、ダメになってる、のかな?」
「あぁ、やりたくも無い仕事 無理してやってるから、お前の透明感無くなって来てる。 生活の為だとしても、教師に向かねーよ、お前」
返す言葉も無く 押し黙っていると、雄一が拓を見下ろしたまま言った。
「俺、来春に今の会社から独立するんだ」
「独立って、勤めて まだ3年だろ? いくら実力がモノをいう業界でも無謀じゃないのか?」
あまりにも突然で予想外な雄一の言葉に、拓は驚いて聞いた。
そんな拓を見て、雄一は片方の口角を上げて笑った。 その笑顔に雄一の自信の程が見える。
「一人じゃないからな。 うちの大学の先輩で、掛居 隆一郎って人 知ってるか?」
「掛居 隆一郎って、映像クリエーターの?」
雄一の言った名前には確かに聞き覚えがあった。
(在学期間は被っていないけど、うちの大学出身の有名人なんだから名前くらいは知ってる…確か、写真学科卒じゃなかったかな?)
そう考えながら 拓は、時折 雑誌などで見る記事に付いている写真を思い出す。
長身の美丈夫で、俳優だと言っても通りそうな美形だった。
「仕事やコンぺで何度か顔を合わせたコトがあったんだけど、共同経営を持ちかけられたんだ」
「共同経営…」
「あぁ、掛居さんはCF担当で、俺が紙媒体のCM担当でって――」