昨夜、オトンは俺に離婚すると言った後、伯母夫婦のいる東京に戻るオカンに着いて行ってやって欲しいと、言った。 あまりにも突然のコトに言葉も出ない程驚いたけれど、それ以上に、頭に来た。
自分が幸せにできなかった女を息子の俺に託すなんて、責任転嫁もいーとこだと思ったからだ。
それでも、どちらかと言うと繊細で、情緒不安定気味なオカンを一人で東京に行かすわけにもいかず、俺は自分の意志で東京に行くコトを決めたんだ。
ただ、小学校からの親友で、いつも一緒だった恭平と もう会えないという事実だけは、受け入れがたいものがあった。
「お前だけ、残るとかでけへんのか?」
「つか、オトンはこっちに残んねん。 俺とオカンだけ…」
「おばさんに着いて行くちゅうことか?」
「せや…」
二人の間に何度目かの沈黙が降りる。
その重さに耐えきれずに、もう一度視線を街並みに向けると、河川敷の堤防道路をランニングする うちのヘタレ野球部の姿が目に留まった。
同中の奴らが何人かいるから、試合の度に 応援半分、からかい半分で、恭平と一緒に見に行ったりしたのを思い出す。
「野球部の試合、よう見に行ったな…」
いつの間にか、俺の横に立った恭平が同じように 走って行く野球部を見てポツリと言ったから、俺は野球部を目で追い、見送りながら短く返事をした。
「せやな」
「もう、一緒に行かれへんのやな?」
「せやな…」
「一緒に登下校も、でけへんのやな?」
「…せやな…」
「駅前のおばちゃんトコの お好みも一緒に食われへんのやな?」
「もう! 何やねん、お前 さっきから! 俺かて淋しいねん、でけへん でけへんばっか言いなや!」
隣に立つ恭平の、はだけた学ランの胸の辺りを掴むと、身長差に少し見あげる恰好になりながらもグイッと引き寄せる。
恭平の言葉に、ずっと我慢していた淋しいという想いが一気にあふれ出し、激しい感情となって俺を怒鳴らせたのだけれど、意外にも当の恭平は優しげに微笑んで俺を見下ろしていた。