Novel Library

□『 「会うは別れの始め」と言うけれど …』
1ページ/7ページ


本多 恭平(ほんだ きょうへい) 高2(17歳)
  ×
豊田 理来(とよた りく)    高2(16歳)

 [関西弁男子]
 突然 引っ越しするコトになった理来は、学校の屋上で 淋しいとは言えないまま、幼馴染みの恭平にそれを伝えた。
 


 この街は、俺の故郷だ。
 学校の屋上から眼下に広がる街並みを眺めながら、俺は思う。
 親に聞いた話では、俺が生まれたのはこの街ではなく どこか違う県の違う街だったらしいけど、物心ついた時にはこの街にいて、今日までずっとここに住んでいたのだから、間違いなくここが俺の故郷だと思う。
 というか、今まで「故郷」についてなんて考えたコトは一度も無くて、今回が全くの初めてだ。
 そして、それは思いもよらぬ家庭内の事情で、突然、まさしく降って湧いたような突然さで俺の身に降りかかり、ただの一度も考えたコトのないような「故郷」について考えざるを得ない状況に追いやられてのコトだった。

「なんやて? 理来…も一回 ゆうてくれへんか?」

 本多恭平は、手すりの上で両腕を組んで そこへアゴを乗せたまま景色を眺める俺に向かって、意味が理解できなかったとでも言うように そう呟いた。
 穏やかな水の流れに夕陽が反射してキラキラと茜色に輝く川面を 目を細めながら眺めつつ、俺はさっき言った言葉を もう一度繰り返した。

「せやから、俺 引っ越すねん」

「なんで、そないに急に? つか、どこへ行くんや?」

「東京やて…」

 サラッと吹いた風で、少しクセのある俺の髪が耳に絡んでくるのを 頭を振って直すついでに体を起こすと、思い切り伸びをしながら振り返り、恭平を見た。
 この事態が信じられないというような表情で俺を見る恭平の切れ長の目と、視線が合うと胸の奥がチクリと痛む。

(昨日 知った俺かて、まだ信じられへんのやから当然やな…)

「なんで…」

 恭平は、それ以上言葉が続かないようで、黙り込むと少し長めの黒髪をかき上げた。

「…うちの親、離婚すんねんて…仲が良くないコトは俺も知っとってんけど、離婚まで話が進んどるとは気ぃつかへんかったわ」

次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]