「はぁ…はぁ…」
屋上には運動場に面した広いスペースに、いくつかのグループやカップルがいたから、俺は給水タンクをグルリと回り込んで体育館側へ移動した。 そちら側はさほど広くも無いスペースが物置代わりに使われているために誰もいなかった。
手すりに覆いかぶさるように凭れて、全力疾走で上がってしまった呼吸を整えながら、俺は自分のバカさ加減に後悔していた。
何で あんな物を渡したのか?
無理しなくても素直にできなかったって言えば済んだだろうに…そう思うと、恥かしさまで加わって更に激しく後悔の念に苛まれてしまう。
小さくため息をついて、手すりに脇でぶら下がるように寄りかかって顔を上げると、体育館の向こうに この場所より ずっと低い位置に広がる街並みが見えた。 その中を、まるでオモチャのように小さく見える赤い電車が、横切って行くのが見える。
普段、孝輔と俺が通学に使っている私鉄だ。
「…ただ、孝輔の喜ぶ顔が見たかっただけなんだけど…あれは無いよな…」
口に出してそう言った途端、何気ない日常の風景が、ほんの少し滲んで霞んだような気がした。
その時だった。
「!」
いきなり後頭部を誰かに掴まれて、驚いて振り返ると、そこに仏頂面の孝輔がいて、更に驚いた。
でも、目を合わせていられなくて、すぐに視線を遠い街並みに戻した。
「ったく、呼んだのに、無視しやがって……二人ともビックリしてたぞ? 木下に至っては、何か良く解らんが俺が悪かったんなら謝っといてくれって 言ってた」
(別に木下のせいじゃないのに…)
そう思っても、言葉にならない。
「……」
そのまま返事をしないで黙っていると、掴まれたままだった後頭部をポンポンと2度 優しく叩かれた。
「なんで逃げた?」
「…ごめん、俺、あんなのしかできなくて…孝輔、恥かしかったろ?」
俯いて そう言うと、すぐに孝輔の声が返ってきた。
「あぁ、恥かしかったな…」
やっぱりか…と思ったものの、こうもハッキリ言われると…さすがに凹むな。