Novel Library

□『 LUNCH TIME PANIC 』 第4話  − TURNING POINT 番外編 −
2ページ/3ページ


「はぁ…はぁ…」

 屋上には運動場に面した広いスペースに、いくつかのグループやカップルがいたから、俺は給水タンクをグルリと回り込んで体育館側へ移動した。 そちら側はさほど広くも無いスペースが物置代わりに使われているために誰もいなかった。
 手すりに覆いかぶさるように凭れて、全力疾走で上がってしまった呼吸を整えながら、俺は自分のバカさ加減に後悔していた。
 何で あんな物を渡したのか?
 無理しなくても素直にできなかったって言えば済んだだろうに…そう思うと、恥かしさまで加わって更に激しく後悔の念に苛まれてしまう。
 小さくため息をついて、手すりに脇でぶら下がるように寄りかかって顔を上げると、体育館の向こうに この場所より ずっと低い位置に広がる街並みが見えた。 その中を、まるでオモチャのように小さく見える赤い電車が、横切って行くのが見える。
 普段、孝輔と俺が通学に使っている私鉄だ。

「…ただ、孝輔の喜ぶ顔が見たかっただけなんだけど…あれは無いよな…」

 口に出してそう言った途端、何気ない日常の風景が、ほんの少し滲んで霞んだような気がした。
 その時だった。

「!」

 いきなり後頭部を誰かに掴まれて、驚いて振り返ると、そこに仏頂面の孝輔がいて、更に驚いた。
 でも、目を合わせていられなくて、すぐに視線を遠い街並みに戻した。

「ったく、呼んだのに、無視しやがって……二人ともビックリしてたぞ? 木下に至っては、何か良く解らんが俺が悪かったんなら謝っといてくれって 言ってた」

(別に木下のせいじゃないのに…)

 そう思っても、言葉にならない。

「……」

 そのまま返事をしないで黙っていると、掴まれたままだった後頭部をポンポンと2度 優しく叩かれた。

「なんで逃げた?」

「…ごめん、俺、あんなのしかできなくて…孝輔、恥かしかったろ?」

 俯いて そう言うと、すぐに孝輔の声が返ってきた。

「あぁ、恥かしかったな…」

 やっぱりか…と思ったものの、こうもハッキリ言われると…さすがに凹むな。

次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]