翌日。
俺は覚悟を決めて昼休みに臨んだ――なんて言うと大げさだけど、気持ち的には十分そんな感じだった。
俺のできる限りの精一杯でやったつもりだけど、正直言って
(ホントにこんなでいーのか?)
という気持ちもいっぱいだった。
孝輔も、木下も岡田も、朝から 今の今まで弁当の件には一切触れて来ないところをみると、最初から俺が弁当なんて作ってくるはずがないと思っているのか、それとも無理な約束をした俺を気の毒に思いそっとしておいてくれてるのかは判らないけど、どちらかと言うと前者のような気がする。
ガタガタと椅子を移動させる3人の所へ行くと、木下が俺に気づいて聞いて来た。
「奏多と孝輔は、今日の昼飯どうすんだ? 俺は、差し入れ弁当あるし、颯生も弁当持ち――」
俺は、木下の言葉を遮るように、正方形の弁当箱を孝輔に向かって差し出した。
「約束だから…俺にできる精一杯…」
「マジ? 奏多、弁当作ったの? てか、作れたの?」
木下のムカつくけど核心を突いたひと言に 言い返すこともできずに黙っていると、孝輔が俺の手から弁当箱を黙って受け取った。
ホントは寸前まで迷っていた。
こんなの渡しても、孝輔が喜んでくれるとは思えなかったから。
孝輔は少しの間 俺の顔を眺めた後、無言のまま弁当の蓋をほんの少し押し上げて――中を見た直後、ものすごい早さで蓋を戻した。
「……」
それを見て、そうだよな という思いで自嘲してしまう。
(やっぱ、あれは無いよな…つか、さすがに孝輔でもあれは恥ずかしいだろ)
ほぼ予想通りの孝輔の反応に 覚悟していたとは言え、俺は居たたまれなくなってしまって――
「ごめん。やっぱ、岡田みたいにはいかねーや。 ホント、それ捨てていーから…」
そう言い残して、足早に教室から逃げ出した。
後ろから 孝輔の呼び止める声が聞こえたような気がしたけど、それを振り切るように猛ダッシュで走りだし、昼休みのせいでわらわらと廊下に溢れていた生徒たちを避けながら 俺は走り続けた。
そのまま一気に階段を駆け上がり 屋上へ飛び出すと、雲一つない抜けるような青空が視界いっぱいに飛び込んで来た。