放課後――。
廊下にズラリと並べられたロッカーからスクバを取り出した孝輔が、扉を閉めたのを確認して背後からソッと近づき、俺は両手をズボンのポケットに突っこんだまま軽く体当たりした。
「一緒に帰ろうぜ」
そう言って前に回り込むと、思いの外 渋い表情の孝輔と目が合った。
あれ? なんか不機嫌?
「孝輔、なんか怒ってる?」
「別に」
この即答具合が、返って不機嫌さを強調してるんだけど、本人は判っていないようだ。
「別にって感じじゃねーじゃん。 何、怒ってんだよ? 俺、何かした?」
「……」
「黙ってたら分んねーし、ハッキリ言えって――」
いきなり孝輔の右手が、俺の顔を正面から挟むように掴み、両頬をギュッと押された。
ポケットに手を突っ込んでたせいで、阻止する間もなく変顔にされてしまった。
「にゃにひゅるんらよ、いらいっれっ!」
思いっきり顔を背けて孝輔の手から逃れた。
マジで痛かった頬を擦って孝輔を見ると、憮然としたままポツリと言った。
「俺とのラブラブモードはあり得ねーんだろ?」
「はぁ?」
孝輔の言ってるコトがよく判らずに、しばし黙り込む。
「何の話だよ、それ?」
「…昼休みに…岡田に、言われた時 おまえがそう答えたんだろ…」
……あ!? そう言えば、そんなことがあったな。 孝輔とハモった時に、岡田にからかわれて、つい そんなこと言ったのを思い出す。