そうなると、木下は毎日、学食や購買で昼飯を調達することになるはずなんだけど、この顔だけ綺麗な鬼畜には校内にたくさんのファンがいて毎日のように差し入れの弁当が届くから学食なんて行く必要が無いんだ。
それでも、今日は『差し入れはない』って、言っていたのに…。
すると、木下がペットボトルを岡田に1本手渡しながら言った。
「フッフッフ、今日はスペシャルな弁当があるんだな。な、颯生?」
スペシャルな弁当? なんじゃそら?
孝輔と俺の視線が岡田に注がれる中、岡田はものすごく嫌そうな顔をしながら、スクバの中から取り出した弁当箱を机の上にドンっと置いた。
「デカッ!!」
「お重って……なんか運動会みたいだな…」
岡田が、スルスルと解いた風呂敷(?)の中から現われたのは孝輔のいう通り、家族揃っての運動会の定番、3段重ねの重箱だった。
俺達の言葉に拗ねたように、岡田が唇を尖らせる。
そんな岡田に気づかないのか、唖然とする俺達を尻目に木下が自慢げに言った。
「これはぁ、颯生が俺のために作ってくれた愛妻弁当なわけ――」
「違うだろっ!」
岡田が慌てたように、木下の言葉を遮った。
『違うのか?』
あ、孝輔とハモッた。
ハモりついでに目まで合った。 なんだか気持ちが繋がってるなぁ、なんて思えて恥かしいんだけど嬉しい。
そんな俺達の視線の会話を、岡田の声が遮った。
「これは修斗の為に作ったというよりは、作らざるを得なかっただけなんだって。 賭けに負けたんだから…」
『賭け?』
あ、またハモッた。
再び、二人の視線が合わさった時、岡田の冷ややかな声が俺達の耳に届いた。
「あのさ、人に疑問符投げかけておきながら、いちいちラブラブモードに突入すんの止めてくんない? 聞く気ないなら俺も話さないし」
「えっ? いや、聞く気あるって…つか、ラブラブモードってなんだよ? ありえねーっつの! なぁ、孝輔?」
助けを求めるように孝輔に視線を戻すと、何が気に障ったのか、あさっての方向を向いて聞こえないフリをされた。
なんだっつーの!?
「いや、だから、ホント聞くから――」
「岡田は、どんな賭けを木下としたんだ?」
慌てる俺の少し上を、孝輔の声が通って行った。