「それで、孝輔は機嫌が悪いのか?」
少し、気にかけたように岡田が孝輔に聞くと、木下が二人の間に割って入るように身を乗り出して言った。
「孝輔の仏頂面はいつものコトだから、颯生が心配する必要ないの」
確かに木下の言う通り、孝輔はいつも通りで機嫌が悪い訳ではないけど、心配の域には程遠い あの程度の声掛けに、そんなあからさまに焼きもちを焼かなくてもいいのに、と思い 木下を見る。 相変わらず、心の狭い奴だ。
「で? おもしろいコトって言うのはいつになったら聞けるんだ?」
半ば 呆れ気味に聞くと、木下は思い出したように話を続けた。
「それがさ、購買のおばちゃんが「今のが最後なの」って言ったのを、最後のメロンパン購入者が聞いてて、こっち振り返ってさ〜、一年の女子だったけど、孝輔見て譲ってくれたんだって」
一年の女子?
何で、孝輔にそんな――と、そう思った瞬間、ニヤニヤ笑いながら 木下が俺の顔をのぞき込んで来た。
「あれ〜? 奏多君、一年女子って聞いて、ジェラシー感じちゃってる?」
「アホか、誰が…」
とっさに、そう言い放ったけど、ひょっとして顔に出てたか?と、ちょっと焦った。
木下のニヤニヤ笑いは止まらないまま、俺の肩に手を置いてくる。
「奏多、心配しなくても大丈夫。 その女子な、素敵な先輩にメロンパンを譲ったと言うよりは、恐怖に慄いて上納したって感じだったから」
「俺は、ヤクザかっ!?」
言いながら、孝輔は木下の手をパシっと、俺の肩から叩き落とした。
知らない人への孝輔の強面の威力は健在のようだ。
「どういう経緯であれ、せっかく譲ってもらったんだから、美味しく食べればいーんじゃね?」
「ふん」
まだ、納得がいかないとでも言いたげな顔で、孝輔はそっぽを向いた。
なんだか、拗ねてんなぁ。
ちょっと可愛かったりして…。
「んで? 木下はなんでお茶2本だけしか買って来てないんだ? 珍しく弁当持って来たのか?」
木下の母親は、なんでも役職付のキャリアウーマンで、フルタイム勤務プラス残業で毎日帰りが遅く、弁当を作るなんてしないらしい。