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□『 すくーる でいず 〜 シナモンとネクタイ〜 』 F
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「ありがとう。香月に褒めてもらって嬉しいよ」

 両手をズボンのポケットに突っ込んで、一生懸命 拓の絵を見つめながら言葉を探し続ける香月を見上げて そう言うと、ほんの少し頬が染まったような気がした。 照れているのかと、その視線を捉えようと更に覗きこむと、香月は急に辺りをキョロキョロと見回して、話を反らすように声を大きくして言った。

「つか、ここに入った時から気になってたんだけど、この匂い、何なんだ? かなり匂うよな…」

 香月の言葉に、同じように辺りを見回しながら、少し考えた拓は、ふと椅子の上の物を見て気がついた。

「ああ、テレピン油の匂いだな。悪い、瓶のフタ開けっ放しだった。 つか、これ変色始まったかもだな…」

「テレピン? …絵を描くのに使うんだ?」

「油絵具の溶剤だよ」

 言いながら瓶のフタを閉めるため、持ちっ放しだったパレットを すぐ横の空いた椅子に置こうとした時、肩に掛けるように乗せていたネクタイの剣先が、スルッとすべり落ちそうになった。
 すかさず、香月の手が それを受け止めた。

「何? ネクタイ、汚れないように肩に掛けてたの?」

 拓が頷くと、香月のもう一方の手が、反対側の肩越しから拓の喉元に回され、後ろから緩く抱きかかえられるような格好になった。
驚いた拓が、首を捩じり後ろにいる香月を見るのと同時に、ノットに指が掛けられネクタイがスルリと解かれる。

「な、に…?」

 突然のコトに、意識せずとも体が硬くなる。 それを見た香月は、クスッと笑った。

「ネクタイ汚れるのが嫌なら、外せばいいと思ったんだけど…ごめん、怖がらせちゃった?」

「ばっ…何言って…なんで俺がお前を怖がるんだよ!」

「そう? なら、いーんだけど?」

 口許に笑みを浮かべて、からかうように拓の顔をのぞき込んで来た香月を掌で押しのけるようにして、拓はフイっとそっぽを向いた。

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