Novel Library

□『 すくーる でいず 〜 シナモンとネクタイ〜 』 E
3ページ/5ページ


 ××××××××××××××××××××××××××××××

 それから、どのくらい経ったのか…
いつの間にか周りが見えなくなるくらいに集中していた。
 だから、一息ついて筆を下ろした途端 声を掛けられて、拓は文字通り飛び上がって驚いた。

「あ、ごめん。 驚かすつもりはなかったんだけど…」

 キャンバスから目を離して声のした方に視線を送ると、やはり驚いた顔をした香月がいつも通り安川の席に座って、こちらを見ていた。

「あんまり拓ちゃんがビックリするから、俺まで驚いたって」

「ご、ごめん…入って来たコトに気づかなかった……いつ?」

「10分くらい前か? 声、掛けようと思ったんだけど、拓ちゃん、すげぇ集中してたから…俺こそ、黙ってて ごめん」

 拓が笑いながら首を横に振ると、香月も笑顔を返して来た。

「でも、俺がここにいるの よく判ったな。 今日は出勤日じゃないのに?」

「うちのクラス4時限目が美術で、さっきまで隣に居たんだ。で、教室に戻ろうと思ってここの前通ったら、ドアの小窓から拓ちゃんが見えたから――」

「え? じゃあ、もう昼休なのか?」

 没頭していて、時間の経過に気がつかなかったようだ。
 立ち上がった香月が、近づいて来る。

「何、描いてるの? 見ていい?」

「いいけど、描きかけだぞ?」

 香月は、拓の後ろに立つと、その肩越しからイーゼルの上のキャンバスを見つめた。
 その覗き込むような立ち位置が あの夏の日の雄一とだぶって、拓はほんの少し居心地の悪さを感じた。

「これは…窓?」

次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]