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それから、どのくらい経ったのか…
いつの間にか周りが見えなくなるくらいに集中していた。
だから、一息ついて筆を下ろした途端 声を掛けられて、拓は文字通り飛び上がって驚いた。
「あ、ごめん。 驚かすつもりはなかったんだけど…」
キャンバスから目を離して声のした方に視線を送ると、やはり驚いた顔をした香月がいつも通り安川の席に座って、こちらを見ていた。
「あんまり拓ちゃんがビックリするから、俺まで驚いたって」
「ご、ごめん…入って来たコトに気づかなかった……いつ?」
「10分くらい前か? 声、掛けようと思ったんだけど、拓ちゃん、すげぇ集中してたから…俺こそ、黙ってて ごめん」
拓が笑いながら首を横に振ると、香月も笑顔を返して来た。
「でも、俺がここにいるの よく判ったな。 今日は出勤日じゃないのに?」
「うちのクラス4時限目が美術で、さっきまで隣に居たんだ。で、教室に戻ろうと思ってここの前通ったら、ドアの小窓から拓ちゃんが見えたから――」
「え? じゃあ、もう昼休なのか?」
没頭していて、時間の経過に気がつかなかったようだ。
立ち上がった香月が、近づいて来る。
「何、描いてるの? 見ていい?」
「いいけど、描きかけだぞ?」
香月は、拓の後ろに立つと、その肩越しからイーゼルの上のキャンバスを見つめた。
その覗き込むような立ち位置が あの夏の日の雄一とだぶって、拓はほんの少し居心地の悪さを感じた。
「これは…窓?」