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□『 すくーる でいず 〜 シナモンとネクタイ〜 』 E
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 拓が変わった、と言いながら、雄一は何がどう変わったのかは一切言おうとしない。
 もし、雄一のいう通り 拓が変わったのだとしたら、それが何なのか 教えてもらわなければ、心当たりのない拓はいつまで経っても判らないままじゃないか。

「拓は…全然解ってない…」

 突然、雄一は一切の愛撫の手を止めると、拓から離れた。
 そのまま立ち上がり、ソファの肘掛に腰を下ろし額を押えて俯いた雄一を目で追いながら、拓は体を起こして はだけた胸の前でワイシャツを握りしめた。

「解ってないって…何が? 一体、俺の何が変わったなんて――」

「…お前は変わったよ。 だって……もう、拓は絵を描こうとしないじゃないか…」

 顔上げ、真正面から自分を見据える雄一の悲しげな眼差しに、拓は言葉を失ったまま、ただ真っ直ぐに向き合うコトしかできなかった。



X.

 翌日、拓は美術準備室に居た。
 本来なら、今日は出勤日ではなかったけれど、学校へやって来た拓は、安川に断わって美術準備室を借りていた。
 教員用の机を置いたスペースと反対側の壁にはキャビネツトが並び、その前には畳んだイーゼルが置いてある。 そのうちの一架を開くと、学校へ来る前に買って来たP10号キャンバスを置いた。
美術室の予備の椅子を2つイーゼルの脇に置き、その上に画材箱を乗せると、しばらく真っ白なキャンバスを見つめる。
 授業以外で筆を持つのは、卒業以来だった。
 昨日、雄一に言われるまで、自分が ずっと絵を描いていなかったコトに気づかなかった。 理由なんて、特にはない。 ただ、日々の生活に追われていただけだ。 たった それだけのコトなのに、雄一はどうして あんなに気にするんだろう?
 不意に頭の中にイメージが浮かび、それをキャンバスに鉛筆で繋ぎとめて行く。
 静かな美術準備室に、拓が走らせる鉛筆の音だけが響く。

「……」

 大まかな下絵が完成すると、拓は画材箱の蓋を開け必要な道具を取り出し、もう一つの椅子の上に並べた。
 木製のパレットに白と青の絵の具を出して、キャンバスに目を戻すとしばらく眺めた後 筆を執り、後はひたすらに絵の具を乗せて行く。

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