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□『 すくーる でいず 〜 シナモンとネクタイ 〜 』D
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「西岡? ちょ、待っ、もしかして泣いてる? 俺、何か変な事言ったか?」

 驚いたようにあたふたする雄一に、拓も驚いて顔を上げる。
 たった今、人の絵をけなしておいて「変な事言ったか?」なんて、追い打ちを掛けるのもほどがある。
 座ったまま雄一を見あげる睫毛の濡れた拓の目と困ったように軽く眉を寄せる雄一の目が合った時、何の前触れもなく雄一の手が拓の頭に乗せられ優しく髪を撫でた。それと同時に、驚いて目を見開いた拓に向かって雄一が言った。

「ごめん、俺、これでも褒めたつもりだったんだ。 なんか、言葉の使い方間違ってるって周りから言われるんだけどさ、自分じゃ、よく分んねーんだよ。勘違いさせたんなら謝るから…」

「……」

 どうやら笑われたわけではないらしい。
 それなら雄一は何と言いたかったんだろう? と、それも気になったけれど、早合点で泣いてしまった事実が今になって猛烈に恥かしくなってきた。
 顔が赤くなってくるのを止められず、また俯くと頭の上から雄一の声が降って来た。

「俺が言いたかったのは、なんつーか、西岡の絵って…純粋だなって、そう言うコトだったんだよな。 子供がただ描きたくて、それだけで描いてるみたいな……これも間違ってるか? なんだ、その…汚れてないって…そんな感じ?」

 雄一の言わんとするコトは判ったような判らないような微妙な所だったけれど、自分の絵を純粋などと評されて今度は別の意味で恥かしくなり、拓はますます顔を上げられなくなってしまった。

「西岡?」

 呼ばれても、顔が上げられない。

「西岡…」

 ふと、雄一がその場にしゃがんだ気配がして、拓を呼ぶ声はさっきよりもずっと近くなった。

「…拓…」

 突然、名前で呼ばれて驚いた拓はつい顔を上げてしまい、すぐ目の前に雄一がいるコトに更に驚く。
 つ、と雄一の両手が拓の小さな顔を包み込むように頬に触れた。

「拓の描く絵と同じで、お前自身もきっと純粋で…綺麗なんだろうな……」

 優しい声でそうつぶやきながら雄一の顔が近づき、次の瞬間、柔らかな感触を唇に感じた。
 思いもよらない突然の出来事に、拓は目を閉じるコトが出来なかった。

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