「先生みたいにやる気ない人でも、やっぱ 教師を辞めるのは嫌なんだ? それって、生活の為?」
ドキリとした。
やる気がない、と生徒に勘付かれているとは思わなかった。
「そんな、コトない。 俺は教師になりたくて なったんだから」
とっさに、取り繕うために吐いた嘘を、香月は鼻で笑って受け止めた。
「ウッソくせ…。 でも ま、教師を辞めたくないって言うなら、この写メは有効だよな?」
香月の差し出したケータイの画面に写し出された画像を見て、拓は絶句した。
「良く撮れてね? 顔もハッキリ写ってて、西岡センセだってすぐに判るだろ?」
それは拓が地下から続く階段を上り切り、最後に地上に足を下ろそうとしている瞬間を写したもので、拓の体の向こうにはファッションヘルスの毒々しい看板がハッキリと写っている上に、親切な看板には、ご丁寧に店の場所を指し示す矢印が、拓が上がって来た階段の下へと向かってデカデカと差し向けられていた。
何も言わず ただ黙り続けていると、拓の目の前でケータイのフリップがパタンと閉じられた。
「やっぱマズいよね? 教師がヘルスで抜いてちゃさ」
(抜いてないから!)
「と言う訳で、これ内緒にしておく代わりに俺のお願い聞いてくれる? 西岡センセ」
(お願い? 脅迫の間違いじゃないのか?)
心の中でツッコミを入れながら、拓は もう総てがどうでもよくなっていた。
学校にヘルスに行っていたとバラしたいなら バラせばいいし、それをネタにユスるというなら それでも構わない。 ただ、何もせずに生徒(こども)の言いなりになるのも悔しいし……少しくらいは言い返してやろうと思った。
「俺をユスる以前に、お前はどうなんだ? こんな時間にこんな場所をウロウロしているコトがバレたら、良くて停学、悪ければ無期停じゃないのか?」
拓の言葉に、香月は動じた風も無く笑顔を返して来た。
「へぇ、俺をユスり返すんだ? でも、残念だね、それユスりにならないから」
香月のあまりの余裕ぶりがカチンと来て、つい声を荒げてしまう。
「なんで。 強がりか?」
「違うよ。この先にあるレストランバー 俺の親が経営してるんだけど、俺、そこにいる親父に会いに行く途中なんだよね」
香月の言葉に グッと詰まる。