「バカ! 何すんだ、下ろせ」
「いーじゃん、別に」
そのまま抱き上げられた状態で、雄一は部屋へと進んで行く。
付き合い始めの頃、雄一は よく こうして拓を抱き上げていた。 その頃は、まだ大いに盛り上がっていた頃だし、ハタチ前後の大学生二人は そういった行為で甘やかな雰囲気を作り出しては、それを楽しみ、酔っていた。
あの時は、それで良かったと今でも思うけれど、さすがに社会人となった今 いくら小柄の童顔だとしても、スーツ姿のままでお姫様だっこは、される方が正直キツイ。
(十代とか、ハタチくらいなら、されてても可愛いかもしれないけど、俺 今年で24歳たぜ? )
何を言っても下ろす気の無さそうな雄一に、それ以上言うのも面倒で、居心地の悪さを感じながらも とりあえず大人しくされるがままになっていると、寝室のベッドの上に ソッと下ろされた。
さすがに、こういう扱いをされるには無理がある年齢だと思っている拓に、今日の雄一は やっかいな奴に他ならない。
何で、こんなに甘々モードになっているのか?
ふと、拓の脳裏を疑惑が横切って行った。
「いつ見ても可愛いな、拓」
言いながら、服を脱がしにかかる雄一の指の動きは いつもと変わらず ゆっくりと焦れったくなるような緩慢な動きで、時折 偶然を装って拓の感じやすい所をかすめて行く。
変わらない、いつも通り過ぎる雄一に、返って疑惑は深まった。
(久しぶりで余裕ないんじゃなかったのか?)
はだけられたワイシャツの下に手を差し入れられ、撫でさするように胸を愛撫されると、慣れ親しんだ感触だと言うのに、ズクリと体の奥が疼く。
「拓…ずっと拓としたかった」
唇を合わせ、緩く吸い、体中をまさぐる手に震えるような快感を覚えながらも、雄一の紡ぐ その言葉に疑念は増すばかりだ。
本当を言えば今すぐ疑惑を問い質したいところだけれど、この段階では証拠が少なすぎる。 もう少し、尻尾を掴んでから…と 今は雄一から与えられる甘美な時に身を委ねることにした。
最も、それが単なる建前であることは、拓自身も十二分に判っていたのだけれど…。
××××××××××××××××××××××××××××××
「あ、拓…俺、イきそ――いい?」
拓の足を抱えなおした雄一は荒々しく腰を穿ちながら、熱に浮かされた人がうわ言をいうように荒い呼吸に途切れ途切れになりながらつぶやいた。
雄一の腰の動きに揺さぶられ続けながら、拓は「うん」と小さく頷くと、華奢な体を掻き抱いて一度だけ その唇にキスを落として来た雄一に縋りついて、後はひたすらに お互いの絶頂に向けて、深く体を合わせるだけだった。
「あっ、あぁ…もう、っん――」
掠れた声を上げて、拓の体が硬直するのと一緒に、雄一の熱が体の奥に放出されるのを感じ、拓は息を詰めて それを受け止めた。