『 すくーる でいず 〜シナモンとネクタイ〜 』
西岡 拓(にしおか たく) 24歳 166p
香月 裕人(かづき ひろと) 17歳 178p
岩下 雄一(いわした ゆういち) 25歳 179p
もう潮時かな…
5年越しの恋人と最低なケンカをした夜に出会ったのは、拓の勤める高校の生徒・香月だった…
T.
繁華街の外れにある その店から西岡 拓が出て来たのは、日付が変わるまでにあと少しといった頃だった。 重い足を引きずりながら地階にあった店から地上へと繋がる薄暗い階段を上がっていくと、知らず知らずのうちに深いため息が口をついて出た。
帰り際の、お店の女の子の憐れむような目つきが頭から離れず、拓のやるせなさを増長する。
本当に今日は最低の一日だった。
朝から完全オフと決め込んでいたから、夕方の約束までは、日ごろの睡眠不足を補うためにゴロゴロするはずだったのに、朝イチの電話にウッカリ出てしまい、一人暮らしの賃貸住まいには縁のないホームクリーニングのセールスを延々と聞かされる羽目になった。
捲くし立てる熟女とおぼしき女性の営業トークをなんとか遮って電話を切った頃には、すっかり目が覚めて、二度寝をする気にすらならなかった。
仕方なく、何気なく撮り続けて溜まっていくばかりだった録画した番組やDVDでも見るかと思い、セットした矢先、今度は職場からの呼び出し電話がかかって来た。
本来なら、この時期に非常勤の拓に呼び出しなどあるはずはないのに、何かと思ったら、職場で割と仲良くしている先輩女性から、資料作りの応援を頼まれてしまった。 無下に断ることもできず、約束の時間の一時間前までならと、承諾した。
完全オフのはずが、朝からフル稼働になってしまいそうだ、とため息を吐きながら、スーツに着替えた。
それでも、夕方の約束までには仕事を終わらせ、待ち合わせ場所にも遅れずにつく事ができた。
けれど、本当の意味での最低な一日は ここから始まった。
その日、拓は5年越しの恋人 岩下雄一と3週間ぶりにデートの約束をしていた。
約束の場所で落ち合い、食事をした後、どこかへ寄るでもなく やたらと部屋へ誘う雄一を訝しく思いながらも着いていくと、玄関を閉めるなり いきなりコトに及ぼうとされ、驚いて両手と片足で雄一を押し留めるというギャグ漫画のような拒否の仕方で応戦してしまった。
付き合いも5年と長いのだから、恥かしいとかムードが欲しいとか、そういうのではなかったけれど、どちらかというと長い付き合いでマンネリ化した ここしばらくの二人のセックスからは、考えられないような展開について行けなかっただけだった。
「なんだよ、急に。 雄一、お前 変だぞ?」
「えー? 3週間ぶりだったから、ちょっと溜まってただけじゃん。 余裕なくて悪かったな。 つか、お前こそ その激しい拒否り方はなんだよ?」
それまで互いに一歩も引かず、片や抱きしめようと躍起になる男と、片や それを拒んで押し返そうとする男の攻防戦は、雄一の言葉で終止符を打たれた。
「…こっちも久ぶりだから、ビックリしたんだよ…」
言うなり、拓は足を下ろし、体の力を抜いた。
途端に雄一は小柄な拓の体を抱きしめ、ひょいと横抱きにする。