「林丘が話があるそうス」
と言って、林丘のいるテーブルに晃を案内した。
フリースペースに置かれた丸テーブルに着いていた林丘は、窓の外を眺めていた。
綺麗に揃えた膝から下の足を斜めに流して、背筋を伸ばして座る林丘は、昨日 女子更衣室でロッカーを蹴りつけながら、上司を口汚く罵った人物とは到底思えない。
二人に気づいた林丘は立ち上がると、受付スマイルで挨拶をしてきた。
「早瀬さん、おはようございます」
(見た目は、こんなに可愛いのに…)
晃の返す笑顔が多少引きつり気味になるのも仕方ないというものだ。
「おはよう、林丘さん。 昨日は、ありがとう――」
「その昨日の件なんですけど」
晃の言葉を遮るように、林丘が話し出した。
「あの…私、絶対に言いませんから。 誰にも…だから、早瀬さんも私のコトは……」
林丘は視線を外したまま、固い表情で言いにくそうに そう言った。
どうやら、昨日の女子更衣室での一幕を黙っていて欲しいというコトらしい。
「俺、話したりしないから大丈夫だよ、安心して。 それに、そんなコトを知って男性社員が揃って寝込んじゃうとシャレにならないからさ。 林丘さんには これからも社内のアイドルでいてもらわないとね」
晃が優しくそう言うと、林丘は少し表情を和らげて微笑った。
「ありがとうございます、早瀬さん。 交換条件っていうのでもないですけど、私も絶対に言いませんから」
林丘の言葉に妙な引っ掛かりを感じて、晃は首を傾げた。
私も絶対に言いませんから――とは?
彼女はさっきから何のコトを言っているんだろう? と、隣にいる甲斐へチラリと視線を投げると、苦虫を噛み潰したような顔で林丘を見ていた。
その様子からすると、何か知っているようだったけれど、どうにも聞き難い雰囲気を醸し出していたため、晃は聞くのを止め、直接 林丘に聞くコトにした。
「あ…のさ、林丘さん。 さっきから気になってたんだけど、絶対に言わないって…何のコト?」
「…早瀬さん、幽霊の噂話、聞いてないんですか?」
「え? 資材課の子が見たとかってヤツ?」
どうも話が繋がらない。 昨日のコトと、幽霊話がどう関係するというんだろうか?
晃がキョトンとしていると、見兼ねたように甲斐が口を挿んだ。
「正確には、見たんじゃなくて『聞いた』なんですけどね」
「何を?」
まだ判らない晃を見て、イラついたのか、林丘が片方の眉を少し上げて言った。