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□資料室の怪談 6
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 甲斐が指差した書棚には綴り紐でまとめられただけのかなり古そうな書類もあったけれど、普段 晃達が使っているのと同じようなファイルに綴じられている物もあって、見れば背表紙に平成元年と書かれていた。
 これで、江田島の怪談がこの場所を題材にしただけの単なる作り話だとハッキリした。 それなのに――

「ここが どこかに繋がっている様子も無いし、完全に行き止まりの部屋ですね」

 甲斐の言葉に頷きながら、そうなると正直 とても事態がよろしくない方向へ進むんだよな、と晃は独りごちて、甲斐にピタリと張り付いた。

「どうしたんスか?」

 晃の行動をどう思ったのか、甲斐が問いかけてくる。

「…ここ何もおかしいコト、無いだろ?」

「そうっスね」

「…じゃあさ…さっきの声は、何だったんだ?」

「そこなんスよね…俺も考えてたんですけど……とりあえず聞き間違いってコトにしときませんか?」

 あっけらかんと言い放った甲斐を見て、晃は開いた口が塞がらない。
 得体の知れない声の正体を確かめに、ここへ来たのに、聞き間違いで終わりにするのか、と少し呆れる。 しかも、二人揃って耳にしているのに、聞き間違いなんて かなり苦しくないか?
 けれど、そうは思いながらも晃としても、これ以上追及して もう考えられる結論は一つしかありませんというコトになるよりは あやふやなまま聞き間違いとしておいた方が、怖さも薄れるような気がして、救いがあるのだけれど…。

「ま、その方が平和かもな…」

「そうそう」

 甲斐は笑いながら相槌を打つと、階段の手すり壁の延長の腰壁に凭れるようにして座り、晃を手招きしている。
 呼ばれるままに隣に並ぶと、

「怖いですか?」

 と、腰を下ろした途端、甲斐に聞かれた。
 もちろん、怖くないと言えば嘘になる。 けれど

「甲斐と一緒だから、平気」

 と答えたのも、本心だった。
 その途端、甲斐の腕が晃を引き寄せ、ギュッと抱きしめてきた。
 唇が耳に触れそうなくらいに近づいてきて、甘い声で とんでもないコトを囁いてくる。

「今のは絶対、誘ってるんですよね?」

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