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□資料室の怪談 6
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 晃の背に回され甲斐の腕に力が籠るのと同時に、携帯のライトが点けられ、二人の足元から階段を照らし出した。
 そのライトの僅かな明かりを頼りに、二人はゆっくりと階段を上がって行く。
 古い作りの階段は、角が無く丸みを帯びているため、気をつけないと革靴の底がすべり、段を踏み外しそうになる。
 足元を確かめながら、8段ほど上がると階段は右に回り込んでいて、180度回転してから3段上がるとフラットなスペースに辿り着いた。
 何度目かに点け直したライトを当ててみると、どうやら そこも書庫のようだった。

「うわぁ、天井低いな。 俺が立つのがギリって感じですね――って、何か顔に当たった」

 天井の低い そのスペースに立った途端、甲斐が何かにぶつかったらしい。
 甲斐がライトを当てると、天井から20センチほどの所でユラユラとゆれる電球が見てとれた。

「これ、裸電球ってヤツじゃないっスか? 初めて見るなぁ」

 揺れる電球を手に取ると、甲斐は繁々と眺めながら、そう言った。

「俺も見るのは初めてだな。 最近はストリップランプとか言って、インテリアとして見直されてるって、何かの記事で読んたけど…それ、点くのか?」

「どうでしょう? …スイッチ、どれだ? これか?」

 ソケット部分に付いたスイッチを甲斐が何やら触っていると、突然、ポワァッと辺りに黄色い白熱灯の光が広がった。

「あ、点いた」

 いきなり目の前で点灯した明かりに、眩しそうに眼を細めながら、甲斐は子供のように笑った。
 その笑顔に晃は目を奪われ、少しの間 ぼんやりと見つめてしまう。

(甲斐って、時々、子供みたいで可愛い…)

「先輩? 聞いてます?」

「…えっ? あ、何?」

 突然、甲斐に呼ばれ晃はハッと我に返った。
 甲斐に見惚れていたコトはバレなかっただろうか、と少し恥ずかしくなる。 

「だから、誰もいないみたいですね、って言ったんスよ」

 裸電球の灯りの下、腰までの高さの書棚に囲まれた 3畳ほどのスペースはガランとしていた。
 甲斐のいう通り誰もいないし、もちろん白骨死体もある訳が無く、そこは至って普通の中二階の物置といった感じだった。

「江田島さんの怪談話に出てきた、元社長室の隠し部屋って、間違いなく ここのコトですね。 つか、20年くらい前までは、普通に書庫として使ってみたいっスよ」

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