「ねぇ、先輩。 やっぱり江田島さんの怪談話って、まったくのデタラメじゃないかもしれないですね? この階段、よく見て下さい」
見ろと言われても、見られるはずもなく、晃は甲斐の背中に張り付いたまま返事だけした。
「何が…?」
「この階段、タイル張りですよ? しかも、滑り止めが無くて、角の部分にアーチ型のタイルが張ってある。 これって、昭和初期の建築物っぽいですよね?」
「だから…?」
「ここ、元社長室の隠し部屋に続く階段なんじゃないですか?」
しばし、二人の間に沈黙が落ちた。
けれど、それは晃の叫びにも似た声で破られた。
「怖い事言うなぁっ! じゃあ、何か? この階段の先に、閉じ込めらた不倫相手の女が今もいるって言うのか? 怖過ぎるだろっ!!」
「いや、いくらなんでも、もう生きてないでしょ? あるとしたら白骨死体でしょうね」
「だから、怖い事を言うな〜っ!」
「えっ!? 未だに生きてる方が怖いでしょ?」
白骨だろうが、生きてようが、どっちも怖いわっ!! と、ツッコミたかったけれど、そんな余裕もないくらい晃の心拍数は上がりきっていて、一刻も早くここから立ち去りたい思いでいっぱいだった。
(もう、嫌だ! ホントに嫌だっ!)
晃は、開け放しのドアにすがりつくようにして、何度も甲斐に「戻ろう」と言った。
それだというのに、甲斐ときたら、階段の先の暗闇をのぞき込むようにしながら、
「ちょっとだけ、階段上がってみませんか?」
などと言い出し、すでに足は階段の一段目にかかっていた。
「お前、俺の意見なんて端から聞く気ないだろ?」
「よく お分かりで。 先輩、怖いんだったら、そこで待ってていーっスよ」
待ってろと言われても、一人で残るのも怖いのだから、晃はどうしたらいいのか判らず、甲斐のワイシャツの背を再び掴んで、その後に続こうとした。 その晃の背が、ドアから離れた時だった。
突然、ものすごい勢いでドアが閉まり、バタンと派手な音を立てたのと同時に、辺りが深い闇に包まれたために、晃は、驚きのあまり声にならない悲鳴を上げて甲斐にしがみついた。
さすがの甲斐も、予想外の大きな音と突然の暗闇にはに驚いたようで、しがみつく晃を庇うように抱きかかえるのと同時に振り返った。
「な、なんでっ、ドア、き、急に…なん、な……」
「先輩、ほら、大丈夫だから落ち着いて」