V.
「甲斐…甲斐……も、無理…」
シーツを固く握りしめて、晃は途切れ途切れに哀願する。
あの後、反論の余地も与えられずに寝室へ連れて行かれ、押し倒され、すぐに始まったセックスは、取り立てていつもと違うものではなかったけれど、甲斐の言った「お仕置き」という言葉が頭の中を巡って、晃は気が気ではなく少しも集中できなかった。
それでも 時間が経つにつれて、繰り返し与えられる甲斐の愛撫やキスのもたらす快感に理性や不安は流されて行き、いつしか晃は甲斐の体の下で艶めいた喘ぎ声を上げながら、その身を熱くして行ったのだけれど…
「先輩…、ここは?」
甲斐の指が爪の先を使って、脇腹から腰骨へとくすぐるように下り、そこから焦らすように、足の付け根をなぞる指が何度も往復する。
その度に晃の腰が小さく跳ねる。
「ん…あっ…」
「ちゃんと返事して…気持ち、いいですか?」
気持ちいい訳がない。
さっきから際どい所ばかり触られて、もうずっと触れてほしい場所は放っておかれているのだから。
体中のあちこちに執拗なまでに繰り替えされる甲斐の愛撫で、晃の昂りはずいぶん前から張りつめ 痛いほどに反り返っているのに、甲斐は一向にそこへは触れずギリギリの際どい場所や、晃が感じすぎるからという理由で触られるのを嫌がる耳や乳首ばかりに触れてくる。
「も、やだ…甲斐、早く…」
甲斐の質問に答える余裕も無く、腰を浮かせて愛撫をねだる晃を無視して、甲斐は弄られ過ぎて赤く色づいた乳首を抓み上げ指の腹でキツく捏ねながら、もう片方の乳首に舌を這わせ、ピチャピチャとわざと音を立てながら舐めてくる。
その快感にビクビクと体を震わせる晃が、耐えられず自分の手を伸ばしかけると、それを払われ両手を一纏めに頭上で縫いとめられた。
「誰が触っていいって言いました?」
「だって、もう……生殺しで…辛い…」
甲斐の体の下で、晃はもどかしさに膝を擦り合わせながら泣きそうな声で訴える。
甲斐のいう「お仕置き」は、こうして嬲られ中途半端に放置されるコトだったのかと、耳に感じる甲斐の舌の感触に身悶えしながら思う。
「そんなに辛いんですか? 仕方ないなぁ、それじゃあ、どうしてほしいんですか?」
耳元で、そう囁いた甲斐の言葉にホッとしながら、晃は恥ずかしさを堪えて「触って欲しい」と頼んだ。
甲斐の指先が、ふるふると震えて透明な蜜をこぼす昂りを根元から、ゆっくりと撫で上げてくる。
「はっ…ぁ、あっ」
たったそれだけのコトなのに、ずっと触られるコトを待ち望んでいた晃の体は、大きく跳ねてしまう。
けれど、甲斐の指はそれだけで止まってしまい、再び 置き去りにされたような思いで晃は甲斐を見あげた。
「な、んで?」
「触ってほしかったんでしょう? だから、触りましたよ」
口許に意地の悪い笑みを浮かべて笑う甲斐の目に、サディスティックな色が窺える。