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□資料室の怪談 1
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 リーマンCP の 社内恋愛事情
 晃は、嫉妬深い年下の恋人 甲斐と極秘の社内恋愛をしている。
 二人が務める会社の 移転間近の旧社屋にまつわる怪談話とは?


甲斐 知宏(かい ともひろ)
 23歳 178p
 製造部生産管理課
 冷静沈着だが、晃に
 関しては かなり嫉妬
 深く そのせいか
 S傾向有り
 素直な一面も…

早瀬 晃(はやせ あきら)
 26歳 172p
 製造部生産管理課
 平凡、やや優柔不断
 傾向にあるので押し
 に弱い
 ちょっと鈍感…

江田島(えだじま)
 晃の同期
 175p 総務部人事課

遠藤(えんどう)
 晃の同期
 182p 製造部製造課

林丘(はやしおか)
 甲斐の同期
 163p 総務部・受付


『 資料室の怪談 』

T.
――戦後まもなく建てられた その社屋の社長室には小さな隠し部屋があったという。
 会社が大きくなるにつれて社屋は増改築され、社長室の場所は変わり、隠し部屋のある その部屋はいつしか資料室として使われるようになっていた。
 歳月と共に資料室の隠し部屋は使われるコトもなく、その存在は忘れられ、知っている者は極僅かになって行き、ついには総務の中の、一部の人間にのみ知られるだけの存在となっていった。
 数年後、総務部の一人の男が、忘れ去られた隠し部屋を社内不倫の相手との密会場所として使うようになった。
 知る人のない隠し部屋での逢瀬は、密やかに続いたのだけれど、ある時、二人は些細な事で言い争いとなり、男は女を隠し部屋に置き去りにすると外から鍵を掛け、その夜のうちに、扉を外から塗り固め、姿を消してしまった。
 後に残ったのは、素人仕事の不自然な塗り方をされた壁だけで、隠し部屋の存在は一人の女の行方とともに完全に忘れ去られていった。
 その後 資料室に一人で入ると、時折いるはずのない女の声が聞こえるコトがあるという。
 声は決まって壁の向こうから、こう聞こえる―――


「ここから出せっ!」

 突然、大きな声で江田島が叫んだのを機に、その場は一気に阿鼻叫喚のるつぼと化した。

「きゃーっ」

「いやっ、怖いーっ」

 暗闇の中で、甲高い悲鳴を上げる女子社員の中には、泣き出した子もいたようだし、男性社員達も泣きこそしなかったものの、驚きのあまりおかしな声を上げた者が確実に何人かいた。
 江田島の手で座敷の電気が点けられると、皆 少しづつ落ち着き始め、必要以上に怖がってしまったコトへの照れ隠しの笑いが そこかしこで起こり始める。
 そんな中、怪談話が苦手な早瀬 晃(はやせ あきら)は恐怖のあまり、声すら出せなかったのだけれど、それを周りの女子社員達が平然としていると勘違いして受け取ってしまい、平気なんてすごいですね、と声を掛けてくるものだから、いやいや自分も怖かったんだよ、などと説明するのも恥ずかしい話だし、ここはラッキーな誤解と言う事で済ませてしまおうと一人心に決めた。

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