入学式も無事終わり たくさんの真新しい教科書をもらって、家に辿り着いたのは12時を少し回ったところだった。
「ちょっと出てくる」
そう言って玄関で靴を履いていると、後ろから兄ちゃんが呼び止めてきた。
「ヨシ、母さんが昼飯どうすんのって。 今日は、オレも由美香もいるからまとめて昼終わらせてーみたいだな」
「帰って来たら食べる。皿洗いとか自分でするから、つっといて」
それだけ言うと玄関を出て、すぐに左へ折れてスチール製のフェンスを跨いで越えようとした時、いきなりサスケが唸りだした。
「なんだよ、お前! 他人が庭に侵入しても無視するくせに、こんな時だけ 何 番犬ぶってんだよ」
今にも飛びかかって来そうなサスケを牽制しながら、距離を取り一気にフェンスを越えるのとサスケが吠えたのは、ほぼ同時だった。
「バーカ! サスケの馬鹿犬」
俺がサスケに悪態をついていたら、千都勢んちの玄関が開いて、あいつがひょっこりと顔を出した。
「ヨシ、待ってたよ」
「あ、あぁ…」
振り返り、千都勢の開けたドアへと向かう。
なんだか、ものすごくガキっぽい所を見られたようで恥ずかしくなり、千都勢の顔がまともに見られない。
千都勢はクスクスと笑っていた。
「ヨシって、サスケと同レベルでケンカするよな、いつも」
「あいつが俺のいうコト、聞かな過ぎなんだよ」
「サスケの唸り声が聞こえたから、ヨシが来たって すぐに分った」
千都勢は、まだ笑ってる。
「チト、おばさん達は?」
「今、出かけてる。先に俺の部屋に行ってて。なんか、テキトーに持ってくから」
「ん、分った」
言われるままに階段を上がり、廊下の左側にある千都勢の部屋に入る。
ドアを開けて正面の窓から見えるのは、隣の家の窓。つまり、俺んちの窓だ。
残念ながら俺の部屋の窓ではなく、納戸変わりに使ってる小部屋の窓なんだけどさ。
普段は見るコトの無い逆方向から我が家の窓を見ていると、そこに兄ちゃんや由美香がいたりして…なんて思えて来て、あまりにも落ち着かなかったから、開いたままのカーテンのレースの方だけ引いた。
その時、クローゼットの扉の前に真新しい制服が掛けてあるコトに気がついた。
千都勢の学校の制服は、ブレザーだ。上着はモスグリーンで、スラックスは、なんて名前か知らないけど、細かいチェックで色はグレー。ネクタイは、やや明るい色のグリーンで、上着の胸の所に校章のエンブレムが付いている。